今回、水の構造を「SPring-8」という最新の分析機器で分析した結果と、水を飲むことが脳の活性化へどの程度寄与するかということについて、最新の研究報告をもとに解説します。
やっと分かりつつある水の構造
水は皆さんもご存知の「H2O」の化学式で表すことのできる液体で、0℃以下になると固体の氷となります。いったん凍ってしまえば固体の結晶構造として種々の調査が可能となりますが、解けた状態の水では水分子がばらばらに変化しているので、大変調査自体が難しいのです。水分子がばらばらに変化する速さは非常に早くて、1~2ピコ秒(ピコ=1兆分の1)で組み替わり常時変化しています。光は真空中で1秒間に約30万キロメートル(およそ地球を7周半)進むことができますが、1ピコ秒では光でさえわずか30マイクロメートル(1千分の30ミリメートル)しか進めません。しかし、こんな難しい調査が「SPring-8」を使用することで可能になってきました。
「SPring-8」とは、平成3年から約6年をかけ、平成9年に供用された総工費約1,100億円の大型放射光施設です。この世界最高性能の放射光を生み出す施設を使用することで、水分子が変化するよりも短い時間で調査が可能になりました。
■関連サイト
「SPring-8ってなあに?」(文部科学省)
その結果、水には比較的大きな密度の不均一性(濃淡)があることが分かりました。人間の目から見ると水は均質で何の変化もないように見えますが、ミクロの世界ではジュースに入ったタピオカのように、氷の構造に似た軽い水のかたまりが散ばった「水玉模様」状のとても細かな構造をしているのです。
今後、水の構造がより詳細に分かることで、これまだえ知られていなかった新しい効果の発見が進むといいですね。
水を飲むことで脳は活性化する
コップ何杯かの水が脳の働きを助け、身体能力だけでなく知的能力まで向上させるということを、2013年7月にイースト・ロンドン大学とウェストミンスター大学の研究者たちが報告しました。調査結果によると、知的作業に集中する前に約0.5リットルの水を飲んだ人は、飲まなかった人と比べて14%も反応時間が速くなり、その効果はのどが乾いていた人ほど顕著であったとのことです。つまり、わずかな水分不足であっても、人間の知的パフォーマンスに影響を与えているということでしょう。
また、子どもたちの場合、コップ1杯の水のポジティブな影響は大人よりもずっと大きかったそうです。
生命の危険にもつながる水分不足の影響は、医療分野で詳細な報告がありますが、適量摂取でも脳を活性化するようなポジティブな研究が今後ますます進んでほしいですね。
<参考資料>
1.いまだ謎多き水分子の世界 −その意外な構造と運動様態の秘密に迫る−
公益財団法人高輝度光科学研究センター (JASRI)
2.Subjective thirst moderates changes in speed of responding associated with water consumption, Front. Hum. Neurosci., 16 July 2013