いやな夜がすてきな夜に変わる『こんやはすてきなゆきのよる』
住宅街をトボトボと歩く黒い野良猫。すぐ目の前の暖かそうな家々の光が、遠い遠い存在に見えることでしょう。「こんやはどこでねようかな……」と途方に暮れています。思わず出てきた言葉は「こんやはいやなゆきのよる」。それが、1匹の白猫との出会いにより『こんやはすてきなゆきのよる』に変わっていくお話です。仲間と一緒だと、つらく思えた状況も楽しみに満ちあふれる様子、2匹の猫がたどり着く先。寒い冬の日に、心がポカポカと温まる絵本です。
仲間と一緒にみる雪の豊かな表情
降りしきる雪の中で、目もひげも口もヘの字に垂れ下がってしまった黒猫。へいの上を歩いていたら「こんやはすてきなゆきのよる」という声がして、ひげはピンと張り、驚いた表情で前方を見つめます。そこには、うっとり雪空を見上げる白猫の姿がありました。白猫と一緒にへいの上を歩く中で、家の中から雪空を見上げる子どもや、犬小屋の中から雪空を見上げる犬の言葉によって、黒猫にも雪が色々なものに姿を変えて見えてきます。それは、楽しいものだったり、美味しいものだったり、きれいなものだったり……。
2匹を待つ温かい空間
黒猫がおなかをすかせていることを知った白猫は、黒猫の前を走ってある場所に向かいます。それを追いかける黒猫には、雪は白猫と出会う前とは全く違ったものに映っていました。私は現在北海道に住んでいるので、積もった雪の上を歩く猫の姿を見ると、飼い猫かな?野良猫かな?と心配になります。人間でも動物でも、抗しがたい自然の営みは、受け取る側の環境によって、美しくも残酷にもなりえます。大人はきっとそれを感じるでしょうし、そしてある程度大きな子も、無意識のうちにそんなことを感じ取るかもしれません。でもとにかく、突然現れた仲間の存在によって、つらく厳しいものだった雪をはしゃぎながら見上げる黒猫の様子や、様々に変わる雪の姿は、温かい気持ちをもたらしてくれると思います。
そして、雪に限らず、雲や空、山々といった自然の表情、町中の色々な物にも豊かな表情を見出すことができるのが子どもの力。毎日ふと見る光景の表情に、大人もふと気づいて子どもと共有するのも、子育て期の醍醐味ですよね。絵本の最終ページでは、目の前のことに夢中になる白猫と対照的に、空を見上げ続ける黒猫の表情が印象的です。