演劇漫画の金字塔と言えばコレ!
『ガラスの仮面』
舞台漫画、演劇漫画と聞いてほぼ100%の人が最初に名前を挙げるのがこの『ガラスの仮面』ではないでしょうか。連載開始は1976年、そして2014年11月現在、単行本は49巻で止まっており、未だ伝説の作品「紅天女」を誰が演じるかも決まっていないという大河っぷり。1997年に新刊の発売が一時中断され、7年後の2004年に第42巻が出た際には、登場人物が携帯電話を使用しており、その事が大きな話題を呼ぶ……なんてトンデモ事象も起きました。
『ガラスの仮面』の肝は、言うまでもなく2人の少女の成長と、封印された舞台「紅天女」の梅の木の精を一体どちらが演じるのか、という点なのですが、物語が進むにつれ、ある”ねじれ現象”が起きたことも見逃せません。
主人公・北島マヤは母親と共に中華料理店に住み込み、店の仕事を手伝う地味で不器用な少女。ある時ひょんなことから伝説の大女優・月影千草に女優としての才能を認められ、演技の勉強を始めます。
一方、ライバル役の姫川亜弓は有名映画監督と女優の一人娘として育った超お嬢様。身の回りの世話はばあやが担当し、所属する「劇団オンディーヌ」でも圧倒的女王として君臨。
……と、通常は主人公・北島マヤ=「良い子」、ライバル=姫川亜弓=「意地悪」という構図が成立し、読者もマヤの事をひたすら応援するという流れになる筈なのですが、2人がWキャストとして「奇跡の人」のヘレン・ケラーを演じる辺りからその図式が崩れ、物語の流れが変化していきます。
2007年に開催された「美内すずえとガラスの仮面展」
北島マヤ=1回台本を読んだだけで全ての台詞を覚え、作品の本質を見抜いて本能で演じる”天才”。
一方の姫川亜弓=親の七光りを超えようと苦しみ、人知れず地道な努力を続ける事で女王の座を守りながらも、マヤにコンプレックスを感じている”秀才”
この新たな構図が明確になったことで、読者の多くが”秀才”姫川亜弓に共感しながら『ガラスの仮面』を読むようになったのです。最初はある種の敵役として登場したキャラクターが、読み手の心を掴み、主役の人気を食うまでに成長したのは『あしたのジョー』以来の現象かもしれません。
劇中には数多くの舞台作品が登場しますが、『ガラスの仮面』作者の美内すずえ氏はこの漫画を描くまでほぼ演劇に触れた事はなかったそう。「忘れられた荒野」以降、「紅天女」挑戦モード一色になった本作ですが、果たしてマヤを見守り続けた”紫の薔薇の人”こと速水眞澄とマヤは晴れて結ばれるのか? 亜弓さんの体はどうなるのか?そして何より50巻はいつ発売されるのか?……この壮大な演劇大河漫画は今、何度目かのクライマックスを迎えています。
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