赤ちゃんの成長を見守った『ちいさいいすのはなし』
『ちいさいいすのはなし』の主人公は、家具作りのおじいさんが作った木の小さないす。元々は山に立っていた1本の木でした。「ちいさい こどもと なかよくしてくれよ」というおじいさんの思いが込められたいすは、自分を撫でてくれたおじいさんのしわだらけの手の感触を忘れることはありませんでした。やがていすは、生まれたばかりの小さな赤ちゃんと出会い、その成長を見守ることになります。初めてハイハイをした赤ちゃんが自分の脚をつかんで笑ったこと、おやつを食べる時には寄りかかられたこと、そして、自分を使って遊んだり、時にはしがみついて涙を流したりしていた小さな男の子。いつも一緒にいた男の子といすだったのに、ある日、いすは自分が男の子にとって不要な存在になってしまったことを知ります。
自分らしさを求めた椅子の冒険
男の子のお母さんに物置に連れていかれたけれど、自分を作ってくれたおじいさんの言葉を思い出し、まだまだ小さな子の役に立ち続けたいと強く願う小さないす。その必死の思いがいすを旅に出させました。絵本の中で見る情景は限られていますが、いすは随分壮大な旅に出たようです。森にたどりついて木々の中に長い間身を置いていたいすは、やがて1人のおばあさんに拾われていき穏やかな日々を送りますが、ある日を境におばあさんは、二度と家に戻ることはありませんでした。おばあさんの家の他の持ち物と一緒に運び出された次の行き先は古道具屋。いすの強い願いはかなわないのでしょうか?
小さいいすが引き寄せた運命的な出会い
恐らくこの間に、20年前後の近い年月が流れたようです。小さないすに、驚くべき運命的な出会いがもたらされました。それは、いすの長年の思いが引き寄せたかのような、すてきな出会い。いすが心の中で喜びの涙を流しているのではないかと思えるほど、心打たれる場面です。粗末にしているわけではなくても、物にはたくさん使われる旬の時期があります。特に子どもが使うものは期間限定であることも少なくありません。物を大切に使うということを子どもに教えるのは、なかなか難しいものです。しかし、絵本『ちいさいいすのはなし』は、物と人の心の交流を、子どもたちにさりげなく伝えてくれるでしょう。絵本に触れる機会が減っていく小学校高学年以降のお子さんたちにも、ぜひこの絵本に出会ってほしいなあと思います。