人間も含めた生物の体のもととなるアミノ酸が宇宙で作られたとすると、本当にびっくりします。また宇宙でアミノ酸が生まれたしくみが分かれば、より深いDNAの働きが解明されるかもしれません。
生命誕生のシナリオ
現在のところ最も一般的に受け入れられているのが、「無機物から有機物が合成され、有機物の反応によって生命が誕生した」とする化学進化です。約46億年前に誕生した地球では、約40~38億年前に原始海洋が誕生します。この原始海洋の中で生命の源となる有機物が、まるでスープのようにかき回されます。このかき混ぜのなかで、より複雑な有機物がお互いにくっつき、微生物のもととなる膜をもった構造物ができます。
生命の誕生は、微生物の化石やタンパク質アミノ酸配列のシミュレーションなどから推定されており、海が誕生した時期とほぼ一致する、約38億年ごろと言われています。
つまり、海ができてすぐに生命も誕生したということなのです。
ここで、研究者の頭を悩ませていることがあります。それは、有機物はどこで作られたのか、という問題です。
海ができる前の地球は高温で、かつ火山が活発に地球全体で活動していました。そんな熱いところで有機物が安定して大量に生成されるはずはない、と言うのです。
宇宙にある水と有機物
2014年11月13日(日本時間)に、欧州宇宙機関(ESA)の無人探査機「ロゼッタ」から切り離した着陸機「フィラエ」が地球から5億キロ程度離れたところにあるチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸しました。「巨大な汚れた雪玉」と呼ばれる彗星は、最大50%ほどが水で、残りはほとんど塵です。この塵のなかに有機物があるらしいのです。
無人探査機「ロゼッタ」は着陸機「フィラエ」を切り離す前に彗星の構成を知る手掛かりになる膨大な量の情報を送ってきています。それによると、さまざまな種類の分子が発見され、これまでに他の彗星で見つかったことのない分子もあるそうです。
つまり、彗星が宇宙にある水と一緒に、有機物を地球に運んできた可能性があるということなのです。
フィラエは今後、彗星の上にとどまり、ロゼッタも彗星とともに太陽に接近します。太陽に近づくにつれて彗星から噴き出されるガスやチリの様子などを、2015年末まで観測するそうです。
より複雑な有機物が星々の間で作られている
東京大学らの研究グループは、赤外線天文衛星「あかり」に搭載された赤外線カメラで、我々の銀河系内で特に活発に星が生まれている場所を調べました。その結果、生命の起原物質の一つとしても注目されている、「多環芳香族炭化水素」(polycyclic aromatic hydrocarbon: PAH)と呼ばれる有機物分子を発見するとともに、周囲の環境に応じて構造が変わっていく様子を明らかにしました。
この多環芳香族炭化水素(PAH)と呼ばれる物質は、隕石や彗星、そして星間空間や遠方の銀河といった多種多様な環境に豊富に存在し、その豊富さと、初期地球の過酷な環境に耐えうる強靭さから、われわれ生命のもととなった物質の候補の一つとして注目されています。
太陽系の初期において地球の大気も薄い時代に、彗星が大気中で燃え尽きず地球に到達。そして生命の無い地球に有機物を降り注ぐことで、初期生命に繋がったかも知れない……と考えると、生命の不可思議さをますます感じることができますね。
<参考資料>
「チュリ彗星に探査機着陸か?生命の起源もやがて解明?」
Marc-André Miserez, swissinfo.ch
「『あかり』が捉えた星間有機物の進化」
JAXA宇宙科学研究所