映画化の課題が見えた『SPEC』と『アンフェア』
ドラマと違い、映画は事件が事件を呼ぶ導入部から クライマックス(多くは危機一髪)まで一気に進みます。犯行が複雑すぎる作品は心理描写がやや荒削りになりやすく、心理描写に焦点を当てすぎるとストーリーの展開がもたつき、作品の勢いを失速させかねません。映画化の難しさを感じます。
■痛快さカムバック 『SPEC』
2010年10月~12月 TBS系列にて放送
映像センスや個性があふれすぎる登場人物など、SPECワールドは54歳の西萩弓枝(脚本)と59歳の堤幸彦(監督)によるものですが、その新しい感覚に驚くばかりです。
しかし『劇場版 SPEC ~結~ 爻ノ篇』では、伏線の複雑さと時空間を越えた内容が『SPEC』の角度をやや変えます。暗闇の映像と抽象的な描写の印象が強い完結編“爻ノ篇”は、『SPEC』から痛快さを消滅させ、物語を切なさ一色に染めます。切なさに涙する人もいれば「大好きだったドラマの雰囲気が…」と感じる人もいるでしょう。
映画のシリーズ化が「謎を次作に持ち越す」という引き伸ばしを戦略にすることも懸念のひとつ。「なぜ!」「どうして!」は好奇心旺盛な視聴者を引き付ける材料となりますが、最高潮に達した「なぜ!」「どうして!」が結末によっては「なんで?」「どういうこと?」に変化する可能性があります。引き付けるつもりが引き離しの原因となる。映画化の怖さと言えそうです。
■雪平夏見ショーが加速した『アンフェア』
2006年1月~3月 フジテレビ系列にて放送
主人公 雪平夏見(篠原涼子)のスタイル、事件に潜む何層もの仕掛け、連続するどんでん返し、登場人物全員を怪しく見せる手法、雪平とコンビを組む安藤一之(瑛太)の哀愁。これらいくつもの要素がドラマの人気を支えました。
警察内部による強固な信念が暴走する犯行はありがちですが、スペシャルドラマ『コード・ブレーキング 暗号解読』では『アンフェア』の魅力を引き継ぎました。
しかし映画 『アンフェア the answer』では“雪平夏見ショー”の色合いが濃く、ドラマのそれとはやや違うものとなります。雪平にしてやられる東京地検検察官村上克明(山田孝之)、警部一条道孝(佐藤浩市)、鑑識課検視官三上薫(加藤雅也)の3人には、『ヤッターマン』のドロンジョ一味のトホホな空気が漂い、サイコチックでグロテスクな気味の悪さという斬新さはあったものの、ドラマの深みがやや退化した印象は否めません。