現時点で最強のメンバーを編成するアギーレ
4年後のW杯出場が年齢的に難しいベテランを、なぜいま呼び戻すのか──。メキシコ人のアギーレ監督と、日本人の間には、代表チームという位置づけについて異なる認識が横たわっている。30歳を過ぎた選手をひと括りに“ベテラン”ととらえる空気が、日本のスポーツ界にはある。似たような実力の選手がいれば、ベテランではなく若手を使う傾向は、日本代表にもクラブにも共通する。
しかし、ヨーロッパや南米のサッカー界では、年齢ではなくその時点でのプレーが重要な評価基準になる。たとえば、イタリアのピルロは35歳で、デ・ロッシは31歳だ。クロアチアでは35歳のオリッチが代表に名を連ね、アルゼンチンの最終ラインには33歳のデミチェリスがいる。とりわけ国際試合では、積み重ねてきた経験が選手選考に加味される。「これだけ実績のある選手が第一線のレベルを維持しているのだから、使わない手はないだろう」という考え方だ。
また、遠藤や今野のように実績を残した選手の場合、海外では自ら去就を明らかにすることが多い。たとえばイタリアのピルロは、ブラジルW杯を最後に代表から退くと明言していた。その後引退を撤回し、現在も代表のユニフォームを着ている。そうしたケースも例外的ではない。
遠藤も今野も、代表引退を明言していない。浦和レッズと優勝争いを演じるガンバ大阪の中心選手であり、11月8日のナビスコカップ決勝でも勝利に貢献した彼らに、アギーレが興味を示すのは当然の流れだったかもしれない。
アギーレの頭のなかで、来年1月のアジアカップが重みを増しているところもあるだろう。アジア王者を決めるこの大会は、優勝国にコンフェデレーションズカップの出場権が与えられる。ロシアW杯の前年に開催される大会には、ブラジルW杯優勝のドイツと各大陸選手権の王者が集結する。
世界のトップクラスと真剣勝負ができる機会は、W杯へ向けた強化に欠かせないプロセスだ。アジアカップへの最後のテストとして、アギーレは遠藤と今野を招集したのだ。
システムを4-2-3-1へ戻せ!
気になるのは戦術との符合だ。アギーレ監督は4-3-3のシステムを基本としているが、遠藤と今野をどこで使うのか。
彼らが招集されていない10月のテストマッチで、すでにシステムに選手がハマらない状況が生まれている。香川真司(25歳、ドルトムント/ドイツ)が中盤の3枚の一角で起用されたのだ。俊敏で素早い彼の個性は、相手ゴール前でこそ発揮される。インサイドハーフと呼ばれる中盤のポジションで、彼の強みを最大限に引き出すのは難しい。
4-3-3のシステムに遠藤を当てはめると、香川と同じインサイドハーフになる。長谷部も同じだ。せっかく招集した彼らのポジションが、重なり合ってしまうのである。
9月、10月のテストマッチで存在感を示した細貝と柴崎は、インサイドハーフで起用されてきた。柴崎を押しのけて遠藤を使うようなことになれば、世代交代の停滞を指摘されるのは避けられない。
今野は守備のユーティリティプレーヤーだが、アギーレ監督は中盤の守備的な仕事をしている彼しか知らない。4-3-3ならアンカーと呼ばれるポジションになるが、最終ラインの手前で幅広く守備をこなす役割が、果たして現在の彼にふさわしいのか。
長谷部をアンカーで起用することもできるが、そうなると今野の行き場はどこになるのか。ザッケローニ前監督指揮下と同じセンターバックへまわすのか──。
そういった疑問の答えを見つける機会として、アギーレ監督は14日と18日のテストマッチを使うのだろう。そもそも代表チームは選手を育てる場所ではなく、結果を残すために最適の人材を揃えるべきである、との考え方もアギーレ監督のなかにはありそうだ。
しかし、4年というスパンでのチーム作りが慣習化している日本サッカーにおいて、彼の選択は馴染みにくい。遠藤と今野が代表選手にふさわしいレベルを維持しているとしても、メディアとファンの視線は4年後へ向いてしまう。
個人的にはシステムの変更が分かりやすい処方箋だと考える。ザッケローニ前監督時代の4-2-3-1へ戻せば、すべての選手をシステムにハメやすくなる。これまで培ってきたコンビネーションを生かすこともできる。
目前の結果を求める現実的な選手選考をした以上、戦い方もそれに見合ったものにするべきだが、アギーレ監督はどのような判断を下すのか。自らのチーム作りを「迷走」と言われないためにも、まずは11月14日のホンジュラス戦で結果を残さなければならない。