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ニッポンのドラマを面白くする 三谷幸喜論(2ページ目)

2015年 新春、三谷幸喜脚本の 『オリエント急行殺人事件』が2夜連続で放送されます。期待感高まる超大作を記念して、愛される三谷作品について考えます。

竹本 道子

執筆者:竹本 道子

ドラマガイド

三谷作品が俳優に愛される理由

■求められるのは、役者として演じること

三谷作品で俳優に求められるのは演技の瞬発力。『short cut』や『大空港2013』といったワンシーン・ワンカットドラマでは、瞬時に切り替える力とそのための集中力が必要でしょう。俳優としての力量を試される、決してラクではない三谷作品の現場ですが、それだけに充実感や達成感を得られることは間違いありません。

また、当て書き(俳優の魅力に合わせて登場人物を書く)の脚本も俳優にとっては興味深いですし、演じることだけが求められる環境や競演者の多い現場も魅力的と言えそうです。

かつてのトレンディードラマは、俳優にファッションリーダーとしての使命を与え、時代の最先端というイメージを付加しました。しかし、金太郎飴のようにどこを切っても同じ表情であることを求められたら、演技の広がりは閉ざされてしまう。そういった作品は俳優自身にとってはもちろん、視聴者にとっても残念なことです。

キャストの魅力を十分に理解し、新しい可能性を見い出して引き出す三谷作品は俳優にとっても未知への扉、愛すべき作品なのです。

 

■求められるのはカッコ悪さとの格闘

三谷作品には、落胆する人とそれをほっとけない人が登場します。二人(時に複数)は出会い、問題解決に乗り出すのですが、多難な前途にアタフタ続きです。激しくアタフタするのか、アタフタをひた隠すのか、いっそ誰かを引き込んでしまうか、徹底したアタフタの連続に、視聴者はつい吹き出してしまいます。

言い換えれば、三谷作品で重要なのはカッコよさに取り組むことよりも、可笑しさに取り組む姿勢。そして、後者の方が実ははるかに難しいことのなのです。共演者はもちろん、テレビを通して観る視聴者の“笑いの呼吸”も意識しなくてはいけません。コレが合わないと面白いものも面白くなくなります。コメディを書く三谷幸喜も鬼才ですが、演じる俳優も俊才なのです。


色褪せることのない三谷作品

1995年に放送された『王様のレストラン』の主人公でギャルソンの千石武(松本幸四郎)のプロ意識は、約20年を経た今も新鮮です。『新撰組!』の意気盛んな上り坂と壊滅に向かう下り坂は、現代においても学ぶべきところがあります。ヒッチコックや『刑事コロンボ』の雰囲気漂う『古畑任三郎』のクラシカルでクールな演出にも古さを感じません。

オーケストラ中心の音楽やシンプルな映像も古さを感じさせない要素ですが、何より“人間をしっかり描いている”、”人間(俳優)がしっかり演じている”ところに大きな理由があります。

例えば昨今のドラマで見られる、分割された画面で登場人物の表情がめまぐるしく変化するといった手法や、ここぞという時に大音量で挿入される臨場感あるメロディーといった演出は、その瞬間こそ胸が高鳴りますが、後で作品を思い出すと煽られた感情ばかりが先立ち、具体的に何に感動したのか思い出せなかったりします。

一方、三谷作品には適度な余白があり、登場人物たちのしっかりした演技、存在感を我々の心に刻みます。ドラマ本来の面白さを楽しめる、と言ってもいいかもしれません。

また映像技術を駆使されたドラマより、肉眼で見る世界に近いドラマの方がシンプルに記憶できます。余白のある三谷作品はいつまでも鮮明なのです。

 

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