どこまで踏み込んでいいのかわからない
DV(ドメスティック・バイオレンス)は身近な暴力被害です
DVは夫婦間の問題だと思われがちですが、子どものクラスの何人かは、今まさに、DVのある家庭で育っています。子どもが守られ大切に育まれるべき家庭の中で、日々暴力にさらされているのです。
友人の顔や体に不自然なアザを見つけた。急につきあいが悪くなった。パートナーの意向を気にする言動が気になる、など、友人のふとした変化に、「もしかしてDV?」と感じてしまうことがあるかもしれません。あるいは、何気ない会話の中で、DV被害を打ち明けられることもあるかもしれません。
家庭内の問題、しかも暴力被害となると、どのように対応すればいいのかわからない。力になってあげたいけれど、専門家でもないし、どこまで踏み込んでいいのかわからない……と、戸惑うのも無理はありません。
でも、暴力の中を生きているママと子どものために、友人だからこそできる支援があるのです。
気づかないフリをしない
DV被害者は、暴力が明るみに出ないよう過剰な束縛や脅迫によって周囲から孤立させられています。ですから、「どうしたの? 何かあった?」このひと言が、彼女を孤独から救います。首を絞められた跡や、顔などの見えるところにできているアザは、DVが日常化し、エスカレートしているサインです。子どもにも影響が及んでいる可能性も非常に高いでしょう。見て見ぬふりをしないで「どうしたの?」と、声をかけましょう。
声をかけたとしても、すぐに被害をカミングアウトされることはあまりないと思います。でも、声をかけることで、彼女や彼女の子どもに対し「周囲は無関心ではない」というメッセージを伝えることができます。
相談されたら、否定せずに聴く。ジャッジ(評価)しない
DV加害者というと、どういう男性を思い浮かべるでしょうか。普段からトラブルを起こしがちな粗暴な人、というイメージでしょうか。そういう人もいます。でも、人あたりがよく、腰が低いDV加害者も多いのです。学歴、職業、年収、社会的地位などは関係しません。中には、地域の中で「人格者」として尊敬を集めている人さえいます。ですから、被害を打ち明けられても、すぐには信じがたいこともあるでしょう。しかし、それは心の中に留めて、彼女が語ることを否定せずに聴くことが大切です。
そして「殴られても仕方がない」「これくらいはマシな方」などと、自分の基準でジャッジ(評価)しないことが大切です。
DVは家庭内のデリケートな問題ですから、誰にでも気軽に相談できるものではありません。ですから、DV被害を打ち明けられたということは「この人なら、わかってくれるかも」と、周囲の友人たちの中で、最も信頼されていると考えて下さい。
たいしたことはできなくて当然です。無理して関わる必要もありません。でも「(できる範囲で)力になりたいと思っている」ということは伝えてあげられるといいかもしれません。その言葉そのものが、彼女と子どもへの「支援」になるからです。
過酷な状況の中、がんばって子育てしてきたことをねぎらい、「あなたは悪くないよ」と言ってあげられるといいですね。どんな理由があったにせよ、暴力は振るう側が悪いのですから。
NGワードを知っておく
悪気はなくても傷つけてしまう言葉があります
NGワードを知っておくと、不本意に相手を傷つけてしまうことが少なくなると思います。
×「まさかあのパパが」
×「暴力を振るうようには見えないわ」
驚いてつい言ってしまいがちですが、「この人に信じてもらえないなら、誰に言ってもムダだ……」という無力感を与えてしまうことがあります。
×「あなたが怒らせるようなことをしたんじゃないの」
これは最悪です。「あなたに落ち度があるのだろうから、暴力を受けても仕方がない」と暴力を肯定しているからです。この言葉は被害者の心を深く傷つけて、絶望に追いやってしまう言葉のひとつです。
×「もっと○○を頑張ればいいんじゃない?」といったアドバイス
アドバイスというのは「あなたは○○ができていない」という指摘でもあり、彼女を責めることに繋がります。DVは、加害者の虫の居所が悪い時に起こります。被害者に原因があるわけではないのです。
×「子どもには父親が必要」
×「子どものために我慢したほうがいい」
忍耐を強いることになります。子どもには父親がいた方がいいかもしれませんが、暴力を振るう父親なら、いない方がマシです。
DV家庭の子どもは、暴力の被害を受けるリスクが非常に高くなっています。また、DVの目撃も子どもの心身に様々な影響を与えます。児童虐待防止法では、DVを目撃させることも児童虐待だと定義されています。
(詳しくは「知っていますか? 親のDVが子どもに与える影響」をお読み下さい。)
×「どうして逃げないの」
素朴な疑問かもしれません。でも、DV夫から逃げるというのは「決して見つからない所に逃げる」ということです。見つかったら更に酷い暴力が待っているからです。自分がこれまで地域でつちかってきた人間関係や仕事、子どもの友だち関係など、それらを全て断ち切って、新天地に行って生活する、ということなのです。
子どものことも気になります。経済的な不安もあります。DV加害者から逃げるのは、並大抵のことではありません。ですから、専門家による支援が必要になってくるのです。
専門機関へのつなげ方
DV被害者に必要なのは、専門家による支援です。「私がなんとかしてあげなければ」という気持ちは捨てましょう。暴力の詳細は聴きすぎないようにしましょう。トレーニングを受けてきたプロのカウンセラーでも、暴力被害の話は聴くと消耗します。また、家庭の事情に踏み込みすぎないことは、友人関係を維持する上でも大切です。
ママと子どもの様子に目を配りながら、さりげなく側にいることが支えになります。周囲から「被害者」として扱われることに苦痛を感じる人が少なくないことも知っておきましょう。
友人としてできる最大の支援は、専門家の支援に繋げることです。「話をきいてもらえるところがあるよ」と、相談に行くことを勧めましょう。そして、相談窓口まで同行したり、相談のあいだ子どもを預かったり、最初の一歩を踏み出す彼女の背中を押してあげてください。
最初に相談に行った先の相談員が「合わない」と思うこともあるかもしれません。その時は、別の相談機関に相談するよう勧めてほしいと思います。気持ちに寄り添い、状況を変えるにはどうすればいいか一緒に考えてくれる相談員は、必ずいます。
DV専門の相談機関
DV相談ナビ「#8008(はれれば)」
自分が受けているのがDVであるかどうかわからない、とか、DVとは認めたくない、といった場合には、地域の男女共同参画センターや福祉事務所の「女性相談」や「DV相談」がいいかもしれません。話をすることは、変化の第一歩になると思います。
面接相談の敷居が高いようであれば、24時間電話で相談できる、フリーダイヤルの「よりそいホットライン」(0120-279-338)を紹介するのもいいでしょう。厚生労働省の事業で、「3」番がDVや性暴力などについて相談できる女性支援専門ラインになっています。
内閣府が設置している「DV相談プラス」では、24時間の電話相談(0120-279-889)のほか、SNS(チャット)やメールでも相談できます。
市町村役場の子育て支援課の窓口や、男女共同参画センターの情報コーナーなどで、相談できる電話番号が書かれたカードが配布されています。それを、DV被害を受けている友人に渡してあげるというのも「支援」です。カードはショッピングモールや図書館などの女子トイレにも置いてあることが多いのでチェックしてみてください。
「友だちからもらった相談室のカードを、ずっとお守りのように財布に入れていました」と言って、ずいぶん経ってから相談室を訪れる人も少なくありません。
DVのことを知る
後付けで構わないので、DVのことを勉強しましょう。ドメスティックバイオレンス(DV)とは(内閣府)
周囲がDVについての正しい知識を持ってくれること、それも心強い「支援」になります。