芸人監督でもあなどるなかれ
タイトルの「ベイブルース」とは、80年代の終りから90年代にかけて、上方漫才の世界に新風を吹き込み、将来有望な若手として注目されたコンビ。しかし、ボケを担当していた河本栄得が93年に25歳と364日の若さで急逝。残されたツッコミ役の高山トモヒロが20年以上の時を経て、映画制作にチャレンジしました。監督という形を借りて、自分達の「青春時代」を描いた異色作品なのです。
ベイブルース、高山を演じるのは波岡一喜。河本役は趙民和。2人の出会いは、高校時代の野球部にまでさかのぼり、映画の中でも坊主頭で熱い演技を見せています。青春時代に抱いた夢を、彼らは最後まで追い求めていたことが分かる印象的なシーンでした。
いい意味で「うっとうしい」
作中で、高山が河本のことを何度も「うっとうしい」と言う場面があります。そういった意味で言えば、この映画自体「うっとうしい」作品です。スタイリッシュな演出とか、斬新なカメラワーク、意表をつくストーリー展開などはありません。しかし見終わった時には、そういったことは一切気になりませんでした。映画としての完成度を高めることよりも、ベイブルースという漫才師がいたという事実を、より多くの人々の脳裏に刻み付けたいという思いの実現。ここに監督・高山トモヒロの手腕が発揮されていたように感じます。
2人の青年がもがき苦しみながら、上方漫才の世界を駆け上ろうと奮闘する姿を、素直に描く。技巧を凝らした演出などなくても、面白い映画は作れるんだと、『ベイブルース~25歳と364日~』は教えてくれます。