絵本

残された大切な存在へ『なきすぎてはいけない』

亡くなったおじいさんから孫へ贈る『なきすぎてはいけない』。誰もが受け入れたくない死。淡々と受け継がれていく命。寂しい気持ち、忘れられない気持ちを包み込みながら、巡る命に思いを馳せずにはいられない1冊です。やがて誰にでもやってくる死への恐怖、悲しみを消し去ることはできなくても、受け継がれていく命について考えることが、子どもたちにも大人たちにも、穏やかな気持ちをもたらしてくれるのではないでしょうか。

執筆者:千葉 美奈子

 大切な人を失った孫へ『なきすぎてはいけない』

雨の降る日、黄色いレインコートに帽子をかぶった男の子が、バス停の屋根の下で椅子に座っています。かたわらには、小さな黄色い傘と、大きな茶色の傘。誰かを待ちわびている様子です。絵本『なきすぎてはいけない』は、亡くなったおじいさんから、お互いに大切な存在で、たくさんの時間を一緒に過ごした大好きな孫へのメッセージです。薄い緑を基調とした穏やかな風景、あまり表情がなかったり見えなかったりする登場人物たち。そんな淡い雰囲気の中で、自分が亡き後の孫を気にかけ、応援するおじいさんの気持ちが淡々と語られます。


 

静かに引き継がれていく命のバトン

おじいさんは、男の子と自然の中でたくさん遊んだ光景を思い出しています。2人で川辺に座って眺めた景色、その時に聞こえた音、初めてとんぼをつかまえた男の子の表情、街の中を手をつないで歩いたこと……。おじいさんも、寂しい。おじいさんがいなくなって元気を失っている男の子の気持ちを、おじいさんもよくわかる。寂しい、忘れられないというお互いが抱える思いを、おじいさんは穏やかに肯定します。そして、寂しさを心のどこかに抱えながらも月日は流れ、男の子は少しずつ少しずつ、かつてのおじいさんに近づいていきます。


誰にでも訪れる「死」

自分が生きているということを全身で表現している赤ちゃんには、はてしない生命力を感じます。その赤ちゃんもやがて、小学生にもなると、少しずつ、死というものの存在、自分や家族にもいつか必ず死が訪れるということを認識していきます。

親の立場としてはどうでしょうか。元気いっぱいに日々の子育ての中で自分を手こずらせてくれる我が子を目の前に、いずれ訪れる永遠の別れは想像することができず、想像すらしたくありません。そしてそれは子どもが成長して大人になったとしても、変わるものではないのではないでしょうか。でも、その現実を受け入れなければならないときが来た時、我が子には「悲しみすぎずにしっかり生きていってほしい」という思いと、「自分のことをたくさん思い出してほしい」という両方の気持ちがわくのではないかと、今の私は想像しています。

残された者を支えてくれるのは、やはり、共に過ごした時間と思い出。その時間や思い出は、強い悲しみが穏やかな感情へと変化していく中で、無意識のうちに、周囲の人々や我が子や孫を含めた若い世代に引き継がれていくのかもしれません。

終盤では、かつておじいさんと男の子がよくそうしていたように、年老いた「男の子」と小さな男の子が手をつないでいます。ラストページでは、穏やかな表情の老人が、大切な人に伝えたいメッセージを笑顔で伝えています。
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