エヴァにつながる『アオイホノオ』
『サブカルチャー史』の「第8回 セカイの変容 90年代(1)」の中心は『新世紀エヴァンゲリオン』。これと深く関わってくるのが現在、先日最終回を迎えたテレビ東京系の『アオイホノオ』。原作は島本和彦(代表作に『炎の転校生』や玉山鉄二・堀北真希で映画化された『逆境ナイン』など)の自分をモデルにしたコミック。1980年に大阪芸術大学に入学した焔モユル (柳楽優弥)がマンガ家を目指す姿を描きます。
彼の前に立ちはだかるのが芸大の同級生、 庵野ヒデアキ(安田顕)、もちろんモデルは庵野秀明。オタクとしてクリエーターとして圧倒的な実力を持ち、そのためモユルはアニメーターを挫折してもう一つの目標だったマンガ家一本に絞ります。まだなにものでもない青春期にいかにアイデンティティを確立するかが大きなテーマになっています。
一方、庵野は同級生の山賀ヒロユキ(ムロツヨシ)、赤井タカミ(中村倫也)とともに岡田トシオ(濱田岳)に誘われて、1981年の大阪SFコンベンション・ダイコンIIIのオープニングアニメを制作。
このダイコン・オープニングアニメが一般には知られてないけど当時はSF、およびアニメ業界で話題になった作品。これに携わったメンバーを中心にガイナックスが設立され『エヴァンゲリオン』を制作するわけです。
ダイコンアニメの影響をうけているのがドラマ版『電車男』。電車男(伊藤淳史)が愛するアニメ『月面兎兵器ミーナ』が1983年・ダイコンIV・オープニングアニメのオマージュになっています。
暑苦しい
『アオイホノオ』全体を見ても、主人公を演じる柳楽優弥の暑苦しい演技(カンヌの主演男優賞から遠いところにきた)やヒロイン・森永とんこ(山本美月)が90年代に小劇場や関西ローカルの番組で活躍していた頃の羽野晶紀(大阪芸大出身)にそっくりなところなどかなり笑わせてくれるドラマです。監督・脚本の福田雄一作品はその脱力した作風から、見る人を選びがちですが、『勇者ヨシヒコ』シリーズと『アオイホノオ』は広い層に受けていて、テレビ東京深夜ドラマとの相性が一番よさそうです。
個人的に好きなのは絵もかけなければオタク的知識もない山賀ヒロユキがやたらと「こいつら(庵野と赤井)を捕まえておけば一生喰いっぱぐれない!」といっているところ。後に『オネアミスの翼』では監督になる山賀博之。アニメの監督は高畑勲、富野由悠季、押井守など絵を書くわけではない人も多いけど、そこをつついてくるか!
まあ、山賀を演じるムロツヨシは『勇者ヨシヒコ』で注目され『新解釈・日本史』で連ドラ初主演を果たした福田作品おなじみキャラなのでイジられているんでしょうけど。
『アオイホノオ』はBSジャパンでも10月5日(日)24時から放送開始します。
ドラマはサブカルか?
『サブカルチャー史』を見ていてもテレビドラマについてはほとんどありません。80年代の時代の転換点として『おしん』の映像が流れたぐらい。テレビドラマはサブカルではないのか?「サブカルの歴史はアメリカでビートニクとエルヴィス・プレスリー、日本で太陽族がでてきた1956年に始まります。ぼく(宮沢章夫)も1956年生まれだし」とこの番組はあくまで宮沢章夫視点で見ています。それぞれに偏愛しているものはサブカルとみていいんじゃないでしょうか。
『サブカルチャー史』のキャッチコピーは「あの時があるから今がある」。ドラマだってそうです。まったく新しくみえる作品も、先行作のさまざまな影響をうけてできています。このガイド記事もそんな考えで書いています。
『ニッポン戦後サブカルチャー史』、単行本にまとめられて10月に出版されます。