ヤマハの大ヒットモデルMT-09の弟分MT-07
今回試乗したMT-07の兄貴分MT-09は2014年4月に発売され、大ヒット。製造元のヤマハ(YAMAHA)は、MT-09の年間販売台数の目標を1500台から4000台に上方修正しました。そして同年8月にコンセプトを同じくして販売されたのが、MT-07です。車両のジャンルで言えば、MT-07はストリートファイター系です。ストリートファイター系とは、最近流行り始めたジャンルでまだ明確な定義はないのですが、基本的にはSS(スーパースポーツ)バイクのカウルをはいで、ネイキッド風に仕上げた車両、という定義が最も浸透しています。そのためストリートファイター系と呼ばれる車両に乗ってみると、ポジションはネイキッドとSSの中間で、動力性能や足回りはSS寄りのセッティングという印象でした。少なくともMT-07に試乗するまでは。
またMT-07の発売から間もなく、インターネット上で論争がありました。他のライターさんは絶対に触れない話題だと思いますが、インターネットに連載を持っている私はあえて触れたいと思います。
それは、MT-07白号への苦情申し立てというタイトルのブログ記事が発端で始まりました。
MT-07白号事件とは? 熱くなるのは本当?
ことの発端は、「奥さんが購入したMT-07をご自身が試乗してみたところ、しばらく乗っていると両足が異様に熱くなってきた。服装は夏用のスラックスに運動靴。長時間乗っていれば低温火傷してしまう欠陥商品だとメーカーにクレームを言った」という内容の記事だったようです。この内容はSNSやブログで拡散され、ネガティブな意見も集まりました。現在この方のブログは既に削除されてしまっています。あまりの反響に怖くなって、削除してしまったというところではないでしょうか。
では実際に試乗してみると、本当に熱く感じるのでしょうか? 事件の真相は? 人気の車両で広報車両の手配に時間がかかったのもあり、筆者は試乗するのを楽しみにしていました。そんなMT-07を1週間の通勤で使用したインプレッションをお届けします。
MT-07は、軽い! とにかく軽い!
早速またがってみると、足つきはなかなかいい感じ。男性の平均身長を下回る私にとっては嬉しいポイントです。カタログスペックを見てみると、シート高は805mm。決して低い数値ではありませんが、シートが絞り込まれており、乗車すると後ろのサスペンションが少し沈み込むためにカタログスペック以上にシートが低く感じます。そしてとにかく車体の軽さが際立っています。MT-07を取りまわしてみると、普段通勤に使っているホンダ(HONDA)CB400SF NC31よりも軽く感じます。MT-07は689ccもある車両なんだから、それなりに重いだろうと思っていたのですが、軽さがとにかく際立っています。
改めてカタログスペックを見てみると、私が借りたABSが搭載されていないモデルのMT-07は車両重量が179kg。私の通勤バイクCB400SF NC31は192kg。その差13kgです。バイクは新モデルがリリースされるたびに太いタイヤが装着され、大きく重くなってきた流れがあります。
つい最近までヤマハのカタログにラインナップされていた4気筒400ccネイキッドスポーツバイク、XJR400Rの重量は199kg。MT-07はXJR400Rに比べても20kg軽量ということになります。本来大型排気量の車両に乗車する際には、バイクの押し引きが重いこともあり、気軽に乗るという感覚はありません。
自宅から歩いていくには面倒なコンビニまでの移動程度であれば、わざわざバイクを出すのも億劫。しかしMT-07は乗車する際に気負うことなく、気軽に乗ることができます。車庫から車両を出してくる際にも取り回しがとても楽です。
軽いということが素晴らしく、重いということが悪いというわけではありませんが、日常的にバイクを使用する環境の場合は、軽いということをメリットに感じることが多いはずです。
ストリートファイター系車両の定義を見直すきっかけに
兄貴分のMT-09の開発者インタビューを拝見した際に、気になった記述を発見しました。それは「スーパーモタードのDNAを感じる、リニアリティを追求した車体」という表記です。今まで試乗したストリートファイター系車両はそれぞれ細かい特性の違いはあれど、スーパースポーツやネイキッドに近い印象でした。ところがMT-07はどちらかというと、オフロードやトレールバイクといわれるジャンルのバイクを操っているような操作感です。特に近いなと感じたのが、以前に紹介した同社の250ccのプレミアムストリートスポーツWR250Xです。同車はオフロードスポーツバイクWR250Rのストリート仕様車両です。
鋭く回るエンジンに、ヒラヒラと旋回できる特徴は、MT-07の特徴と重なる部分があります。これはMT-07がMT-09と同じくマスフォワードとマスの集中化。つまり前の方に重いパーツを集中して配置する、オフロードバイクの技術が注ぎ込まれているからだと言えます。
9000rpmで73.4psを発生するエンジンユニットは、どの回転域でスロットルを回しても力強く加速し、一度6速までギアを上げれば細かいギアの操作は不要。6速固定のまま40キロまでスピードが落ちても際加速することが可能です。
まさにMT-07の「気負うことなくモーターサイクル本来の楽しみを存分に味わう」というコンセプト通りの車両です。最近は「町乗りを快適に走れるバイク」というコンセプトのバイクが増えてきてはいますが、ヤマハのアプローチは他社とは少し違うアプローチのようです。
MT-07の価格はかなりのお値打ち価格
MT-07の車輌価格は、69万9840円(税込み)です。新車でもよく値引きされているようなので、運が良ければ40万円台後半で購入することができそうです。発売からある程度経過し、台数もかなり売れたので中古の台数も増えてきています。相場的には程度の良い車両でも、探せば乗り出しで50万円台前半から可能です。
車輌が安く購入できる分、自分だけの個性を演出するためにカスタムするのも良いかもしれません。最近MT-07を街で見かけることも増えてきましたが、街行くMT-07でもカスタムパーツで装着率が高いのはスクリーンです。
MT-07は比較的燃費が良く、街中の通勤で試乗した際でも25km/L程度でした。燃料タンク容量は少な目の13Lですが、計算上は無給油で325km走行することができます。燃費は大型バイクにしては良好なのでツーリングで遠出することも可能です。
高速道路を走行する際は、体への風当たりの緩和や夏場に顔に虫が当たるのをスクリーンで防ぐことができるので、おすすめのカスタムパーツのひとつです。
MT-07はノーマルマフラーの音も比較的良いのですが、エンジンの下ぐらいに恐らく環境性能を上げるための膨脹室を設けており、個人的にはこの部分がMT-07のシャープなイメージと合わないと思います。ということでマフラーを交換しても良いかもしれません。
あのブログ炎上事件の真相はどうだったのか?
MT-07白号への苦情申し立て事件の際、多くの人がブログ主の服装を指摘しました。あまりに薄手で、「バイクに乗る服装ではない」と。そのような服装でバイクに乗っていれば熱く感じるのも当たり前だ、という意見が多かったように思います。私は毎日バイクで通勤していますが、正直に言えば、厚手のパンツや革のパンツを履いて通勤しているような人はほとんど見かけません。確かに転倒時や事故を起こしてしまった時のことを考えれば、しっかりと体を守る服装でバイクに乗った方が良いとは思います。しかしながら、朝の忙しい時間にそこまで準備する人はほとんどいません。私はバイクに乗る際の服装は自己責任だと思っています。
私もロングツーリングなどの際には、できるだけしっかりと体を守る服装で行くようにしていますが、通勤の際には、ジーパンにエンジニアブーツの時も多々あります。残暑厳しい時期にMT-07をお借りし、気温が25度以上の日も多く、通勤は混みあう都内を抜けて1時間かけて事務所に通っています。そんな状態でもMT-07のエンジンを熱いと感じることはありませんでした。むしろ温かさを感じることすらなかったように思います。
昔からバイクは「エンジンの上に座るような物だから、熱くて当たり前!」と言われてきましたが、最近のバイクはライダーに熱を感じさせない工夫がされている車両もあります。そう考えると、MT-07白号は何らかのトラブルがある車両だったのかもしれません。
炎上してしまったご本人は不憫に感じるところもありますが、個人が簡単に媒体を持って意見を配信することができるご時勢だからこそ、過激な発言は控えた方が良いように思います。
MT-07をちょっとカスタムするなら
MT-07も発売から時が経ち、人気車種ということもあってアフターパーツメーカーからも製品が多数リリースされています。スクリーンもいくつか販売されていますが、こちらの製品はスクリーンのステー部分にスマートフォンホルダーをマウントできる製品です。地図アプリを使い際などに視点の移動が少ないのが便利です。MT-07にリアキャリアを装着するためにはカウルの加工が必要になります。純正オプションのリアキャリアを装着する場合は最初から穴が開いているカウルを購入することで、穴あけ作業を省くことができます。ただやや高いので、バイク屋さんにお願いした際の工賃とどちらかが高くなるかは微妙なところです。
人気のマフラーメーカー、アクラポヴィッチはレース用マフラーのラインナップが多い印象ですが、MT-07用は公道走行が可能な認証マフラーも存在します。サイレンサーは軽量で強度に優れたチタン。エンドキャップは美しいカーボンで仕上げられています。
アマゾンを調べて見たら中国の市場直送のMT-07のバックステップが1万円ぐらいでいくつも出てきました。ご紹介したオーバーのバックステップは5万円ほどですが、アルミでCNC削り出し仕上げなので価格相応と言えます。
それに比べると1万円はものすごく安いですが、以前1個とってみたところ無加工で装着はできませんでした。最近はアマゾンに中国の業者が直接出品していますが、格安品には訳があります。ただ技術がある人にとっては素材としてはめちゃ安なのでトライしても良いかもしれません。おすすめはしませんが……。
ヤマハ(YAMAHA)MT-07スペック詳細
型式:EBL-RM07J全長×全幅×全高:2,085mm×745mm×1,090mm
シート高:805mm
車両重量:179kg【182kg】【】内はABS付
燃料消費率:24.1km/L WMTCモード時
総排気量:689cc
最高出力:54kW(73PS)/9,000r/min
最大トルク:68N・m(6.9kgf・m)/6,500r/min
燃料タンク容量:13L
タイヤサイズ(前/後):20/70ZR17M/C 58W(チューブレス)/180/55ZR17M/C 73W(チューブレス)
MT-07関連リンク
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