「家は3回建てないと、満足のいく家が出来ない」―― 決して、そのようなことはない。
よく耳にする言葉ですが、この格言は「経験と失敗を何回か繰り返して、ようやく自分の理想とする住宅を手に入れることができる」という意味で、裏を返せば「1回で100%満足する家を建てるのは難しい」ことを示唆します。
その真偽を確認すべく、両親に新居の住み心地を尋ねてみると、設計段階では綿密な打ち合わせをしていたにもかかわらず、やはり新生活が始まると予期せぬ不具合や不満点がいくつも浮上してきました。3月末の引き渡しから半年近くが過ぎ、どうにか新しい生活には慣れたものの、使い勝手の悪さやイメージギャップによる「説明と違う」といった発言が両親から飛び出してきました。
そこで、第12回目となる両親のための高齢者仕様住宅の新築連載シリーズ。今回で最終回となりますが、本稿では両親が実際に感じた住み心地のマイナス面とプラス面の両方を具体的にご紹介します。
母の身長に合わせたキッチンの高さ しかし、父には低くて不便
ガスコンロは3つもいらない、という父親
- キッチンのガスコンロは3つもいらない。多すぎて、かえって邪魔になる。
- 母親の身長(約140cm)に合わせてキッチンの高さを80cmにしたため、母には最適な一方、父(約165cm)にとっては逆に低く、父には使いにくくなってしまった。
- カーテンレールが天井(天井高2.4メートル)と同じ高さに取り付けられているため、市販の安価なカーテンでは対応できず、カーテン代がその分、高くついてしまった。
- 1階廊下に設置した足元フットライトが夜間も点灯し続けるので気になる。
- 段差のない床面仕様にしてもらったため、脱衣所と浴槽の境界にも段差はないのだが、床がフラットなため、たとえば強めにシャワーを浴びると浴室床面をつたって脱衣所へ水が溢れ出しそう(逆流しそう)で気が気でない。
- 今年8月、両親宅付近を襲った雷により玄関のリモコン式電子キーが回路故障で突然に使えなくなるトラブルが発生。その修理代に10万円以上かかったこともあり、電子錠にしたことを悔やんでいた。
今回の新築の目的は、日常歩行が不自由な母親が自宅で少しでも快適な生活を送れるようにすることにあります。そのため、キッチンの高さを低くしたり床面の段差を解消したり、あるいは、足元フットライトを設置したり玄関キーの開施錠をリモコン操作できるようにするなど、いずれも“良かれ”と思って取り入れた仕様や設備です。
ところが、上述のような不満点が生じてしまいました。原因を突き詰めれば想像力の欠如といえるのでしょう。今では標準的な仕様や設備であっても、戦前生まれの両親にとっては馴染みにくい(=想定外の)部分があったようです。77歳の母と80歳の父にとって、次(2回目)の建て替えチャンスはありません。会うたびに小言(不満)は口にしますが、慣れてもらうのが最良の解決策となります。
両親の総合評価は合格点 これから愛着のある家へと育てていこう
壁一面に充填された断熱材。夏涼しく、冬暖かい生活が可能になる。
今、父が最も気に入っているのが玄関脇にある庭での土いじりです。今夏はきゅうりやかぼちゃを栽培し、収穫して自宅で食べていました。「こんな簡単に家庭菜園ができるの?」と私は驚いたのですが、父いわく、すぐに育つそうです。「余分にとれれば、ご近所に配りたい」と意欲満々です。新居を手に入れたことで、新たな生きがいを見つけたようです。
また、肝心な母に関しては、畳での生活からイスへの生活へと様変わりし、腰への負担が減ったことを大変よろこんでいます。同時に、就寝スタイルも布団からベッドへと変わり、寝起きが楽になったと言っています。
さらに、冷房を上手に活用して今年の猛暑は過ごしていました。高断熱仕様で施工されているが故の効果(快適性)といえるでしょう。築35年の旧家では、エアコンをフル回転させても室温は思うように下がりませんでした。1人では外出できず、日常生活の大半を自宅で過ごす母にとって、居心地のいい空間を手に入れられたことは何物にも代えられない喜びです。
住宅は完成段階がベストな状態ではありません。住みながらカスタマイズしていくことで、理想の住宅へと進化します。愛情を注ぐことで、マイホームは愛着のある住まいへと生まれ変わります。手を加えることで、いくらでも住み安さは向上します。両親には時間をかけ、自分好みの家に育てていってほしいと思います。