髪型自由自在 古田新太
1965年生まれ
『BORDER 警視庁捜査一課 殺人犯捜査第4係』(テレビ朝日系列 2014年4月~6月)に出演
豪快でオッサンであることを恐れない古田新太にはユーモアと信念を感じます。
おしゃべりすぎる男、無口な男、真面目な男、不真面目な男、情熱的な男、冷酷な男……、その人物の風味を漂流させながら、演じ分けます。
そして、どんな人物を演じても、演じることを謳歌します。豪快な反面たおやかで、そのたおやかさがインドの神様 ガネーシャ(『夢をかなえるゾウ』)からインディアン ジェロニモIII世(『ギャルサー』)まで、学名(ホモ・サピエンス)や国籍を越えた演技を可能にしているのでしょう。ちょっとほかにはいない存在ですね。
オッサンを恐れないと書きましたが、髪型は挑発的です。一般には超難関の若者向け髪型を、無理なく自分のものにしてしまう摩訶不思議。そこにあるのは、髪型を越えたその人の心なのでしょう。
『隠蔽捜査』でガッチリ固めた黒髪はキャリア官僚・伊丹俊太郎、黒髪をセンター分けにし、少しクルットさせれば『あまちゃん』のプロデューサー・荒巻太一、王冠をのせれば神様ガネーシャになります。野球帽も金髪も刈り上げも自由自在、演じるオッサンも自由自在、人生を自由自在に闊歩しているのです。
髭自由自在 山田孝之
1983年生まれ 『信長協奏曲』(フジテレビ系列 2014年10月~)に出演『ウォーターボーイズ』の爽やか路線から、彼の才能は想像をはるかに超え開花してきました。『闇金ウシジマくん』シリーズといい『勇者ヨシヒコ』シリーズといい、一筋縄ではいかない役どころを、ごく自然に演じてしまうのは資質であり努力だと思います。ヒョロっと華奢なイケメンが多いなか、骨太で芯の強さを感じます。それはおそらく彼の精悍な顔つきが、誰が相手でも引くことのない毅然を生み、その毅然が不必要な肩の力をうまく取り除いているのでしょう。
真っ直ぐに構えることもあれば斜めに構えることもある。そんな演技を支える一つがヒゲです。
ヒゲというのは演じるうえで重要なアイテムです。滑稽になると困りますが、独特の雰囲気を醸し出すのであれば、それは大きな武器になります。以前メガネの達人を生瀬勝久と紹介しましたが、山田孝之はヒゲ自由自在の達人です。無精ヒゲ、イケメンヒゲ、山男ヒゲ、上下対象ヒゲなど あらゆるヒゲを使い分け、人物像を深めていきます。
将来、社会の構造はさらに複雑になり、物語はさらに何層も絡み合い、難しい演技を要求されることになるでしょう。しかし、社会派ドラマはもちろんサスペンス、コメディー、時代劇、山田孝之はすべての作品に自由自在に切り込んでいくはずです。
美しさ自由自在 松雪泰子
1972年生まれ 『家族狩り』(TBS系列 2014年7月~9月)に主演すべてに耐え忍ぶ寡黙な女性が美しければ、すべてを敵に回し戦い続ける女性も美しい。そんな女性の美しさを原色から淡色まで自由自在に演じることができる俳優です。
その美しさはしなやかさにあると思います。刺々しい輪郭の人物でも、どこかに曲線を残すことができ、その柔らかさが折れない強さを支えているようです。彼女にしか演じられない慈悲の表情にいつも心が洗われます。台詞があるわけでも、それとわかる仕草があるわけでもない。しかし奥深い慈悲を感じます。
『きらきらひかる』での刑事、『救命病棟24時』での医師など、仕事ができる女性シリーズからさらに拡張を続け、妥協しない俳優は成長を遂げていることを、視聴者ははっきりと感じています。『家族狩り』での松雪泰子にしか演じられない氷崎游子は力強く美しかった。過激とグロテスクの連続、相手の痛みを抉り出すような言葉の応酬、深刻なテーマにもかかわらず、初回からどこか希望を感じられたのは、彼女の演技が直向きだったこと、全身を震わせ不条理に対し怒っていたからだと思います。見るべき作品だと感じた視聴者は多いはずです。
怒りをまっすぐに表現し、赤裸々に感情を見せる女優は本物です。繕いの美しさを脱皮したそこに生まれるのは、女優としての美しさ以上に、人間として美しさなのでしょう。
綺麗に見せようとすることが優先されがちなドラマの世界で、演じることを優先させる俳優たちの歩みを私たちはドラマから感じることができます。「綺麗ね」「カッコイイね」と言われることを良しとしない彼らの演技は、まさに美しくカッコイイのではないでしょうか。
秋の夜長、俳優たちの自由自在を味わいたいと思います。