日本とアメリカの高度生殖医療事情

先日、日本産科婦人科学会は2012年度の体外受精、胚移植等の臨床成績を報告しました。

この報告によると、日本の総治療周期は326,426周期に及び、1年間に37,953人の子どもが誕生しているそうです。この治療周期数は世界で最も多く、日本は世界で最も体外受精を行っている国だということが分かります。

※参考記事:体外受精と人工授精の違いは?

総出生数に占める生殖補助医療で生まれた子の割合は3.66%であり、27人に1人が体外受精関連技術で生まれているということになります。

1999年は100人に1人の割合で体外受精児が誕生していましたが、14年間で27人に1人を時代になったということです。
IVF

体外受精では、カラダの外で卵子と精子の出会いと胚の成長をサポートします。


一方、アメリカはどれくらい行っているのかというと、2012年に全米で176,247周期の体外受精が行われ、前年比では約2000人増となる計61740人の新生児が誕生しています。同年にアメリカで生まれた新生児は約390万人で、体外受精の比率は1.5%強となります。

※参考資料:アメリカCDCデータ
http://nccd.cdc.gov/DRH_ART/Apps/NationalSummaryReport.aspx
 

なぜ日本の体外受精は成功率が低いのか?

日本とアメリカの数字を比較してもらえば分かると思いますが、日本は体外受精の数は多いのにも関わらず、妊娠数が少ないことが分かります。

実を言うと日本は世界でも体外受精妊娠率の低い国の一つとなっています。それには大きな理由があります。

それは、日本では「自然周期排卵誘発」が体外受精の主流になったためです。自然という言葉を使っていますが、本当は「minimal stimulation ivf」と言います。日本語訳だと「低刺激排卵誘発法」になるかと思います。

1個の卵を排卵誘発で育て、それを採卵し、体外受精をさせて戻すという治療です。

この治療の良いところは、ホルモン剤を多く使わないので排卵誘発剤の副作用が少ないというメリットがあります。

しかしながら一番の問題は1~2個しか卵子を採らず受精卵が少ないことです。受精卵が少なければ、妊娠率も上がってきません。詳しいデータによると1回の採卵数において15個ぐらいまでは妊娠率が採卵数に比例して上昇します。

もともと、1個しか採らないという発想に行き着いたのは、通常の排卵が1個なのだからそれに近づけようということ、そして、多くの原始卵胞から最適な1個が選ばれてきたのではないかという概念があるためです。
IVF

卵巣では多くの卵子が育つ力を持っています。


しかし、最近の研究で、卵胞・卵子が1個に選ばれて大きくなるのはたまたまタイミングの合った偶然の産物で、選ばれしものではないことも分かってきています。受精卵1個あたりで平均すると、赤ちゃんまで成長できる確率は5%ぐらいと報告されています。

よって、元々の理論が崩れている上、妊娠率がまったく上がってこないという結果によっても、その方法が多く行われていることに疑問の声が上がってきています。

また、これは日本だけですが、「自然」という名前に惹かれて、この治療を選んでいる世の中の風潮もあります。

欧米を含め、世界の成績の高い国では「きちんと排卵誘発を行い、たくさんの卵子を採卵することは多くの妊娠する力を持つ卵子を救うこと」になり、その中から妊娠に結びつくものが出てくるので、理にかなった治療として実施されています。

もちろん、排卵誘発剤で副作用が出て、不定愁訴が出てきたりすることもありますが、不妊専門医は想定内の事ですので、安心して治療されると良いかと思います。なにしろ50年以上使われている医師としては慣れている薬剤ですから。OHSSの副作用も追剰喚起されていますが、現在は薬剤も進歩し、昔のようにOHSSにはなりません。

今年も多くの国の不妊治療施設に伺い、各国のドクター取材をしました。そんな中で、事あるごとに「なぜ日本ではminimal stimulation ivfの症例がこれだけ多いのだ??」と質問され、答えに窮してしまいました。裏返すと「君たちはなんで妊娠率の低い治療ばかりやってるんだ?」という意味ですので、これには私も閉口するしかありませんでした。

よって、一つ目のポイントは「体外受精を行う時は自然周期排卵誘発を第一選択にしない」ということを提言します。

もちろん、minimal stimulation ivfが適合する方もおられます。排卵誘発剤の効果が十分得られない方などは必要な治療法と言えますが、それに適合する患者さんはそれほど多いものではありません。