懸賞小説選び
ところで、日本ほど懸賞小説が多い国はないと言われています。ですから、募集内容も千差万別です。仕事を複数抱えているので長編小説は書けないので、選択の余地なく短編小説を書くことにしました。そこでパッと目に入ってきたのが、競輪の懸賞小説です。枚数は原稿用紙10枚程度。適量です。ただ、雑誌でこの賞の特集が組まれたので激戦が予想されました。
面白いなとは思いましたが、競輪場に行ったことがありません。想像で書くには限界があるので、できるだけ自分の良く知る分野に結びつけるしかありません。となると、私の専門分野である離婚と競輪をどう結びつけるかが鍵でした。
難航するも活かされる業務経験
書いてみるとこれが難しいのです。「競輪選手は男性が多いから、主人公は女性の方がバランスがいいなあ。よし、主人公は女性にしよう。さて、内容だけど、小説はリアリティーが重要だから、よく知っている離婚、離婚と。でも、待てよ、かつての依頼者が「これ私のこと」と思われるのはよくない。守秘義務もあるから協議離婚はやめておこう。離婚裁判にしよう。そうだ、調布の競輪場の懸賞小説だから、近場の立川の家庭裁判所から始まる話にしよう」。こうして書き出しが決まりました。あとは本論です。当時の世相として、明らかに小説に明るさが求められていました。離婚をテーマにしながらも明るくしなければなりません。「何とか明るい小説にできないかなあ。この懸賞小説はスペシャルレースを記念として募集されたものなのに離婚が書き出しなんて……、まあ、その分埋もれることはないだろうけど。離婚で明るく、どうしよう、うーん」。こんなことを考えていると、離婚を契機に人生を取り戻した人たちが思い浮かびます。
「そうか、離婚小説を明るくする方法はただ一つ人生の再生かなあ。その再生に競輪を絡ませるしかないな。じゃ、どうやって絡ませよう。対比の構図で、主人公が競輪選手から人生の再生のきっかけを見つける。これしかないな」。こうして小説の構成が決まりました。小説の描写は心の移り変わりを描くものですが、主人公の気持ちはこれまで業務経験で感じたことを一般化して表現しました。これまでの業務経験が小説に活かされていきました。
残された問題は競輪描写でした。競輪小説なので、実際の競技の場面の描写が必要です。これは、動画を繰り返し見て、表現を練りました。一番苦労した点かもしれません。
こうして何とか小説を書き上げたのです。
最後に 結果
結果発表の数週間前、私の携帯に見慣れない番号からの電話が。留守電に主催者から入賞をはたしたとの連絡が入っているではありませんか。素人の書いたにわか仕込みの小説です。もちろん大賞ではありませんが、特別賞を頂きました。家族旅行ができるくらいの賞金も頂きました。これまで、離婚について真剣にむきあってきました。離婚制度に悩み、大学院で研究もしました。苦悩に満ちた行政書士業務がなければ受賞できませんでした。あの辛い日々が少し報われたような気もします。