父から息子へ。深い愛情を描いた渋い名作
『普通の人々』(1980年度作品)ロバート・レッドフォード初監督作にしてアカデミー作品賞、監督賞などを受賞した家族ドラマ。有能な弁護士カルビン(ドナルド・サザーランド)の一家の長男が亡くなり、長男を溺愛していた母ベス(メアリー・タイラー・ムーア)は次男コンラッド(ティモシー・ハットン)に心を閉ざし、兄を失った次男は心の病に。父は妻と次男のわだかまりを解消させようとしますが……。
長男の死をきっかけに崩壊していく家族の中でも、父と母の息子に対する想いの違いに心が痛くなります。母のベスは理想の息子を亡くして茫然自失状態ですが、父のカルビンは妻と息子の気持ちを解きほぐそうと必死だからです。この映画の救いは次男コンラッドを想う父の気持ちです。ベスは二人の息子への愛情に差があったけど、カルビンは同じように愛していたからです。家族がひとり欠けてしまうと、こんな風に家族は傾いてしまうものなのですね。家族の間に常に吹いているすき間風、家の中の静寂。その冷たさがリアルです。
監督: ロバート・レッドフォード 出演:ドナルド・サザーランド、メアリー・タイラー・ムーア、ティモシー・ハットン、ジャド・ハーシュ、エリザベス・マクガヴァンほか
『息子のまなざし』(2002年度作品)
職業訓練所で大工仕事を教えている男オリヴィエ(オリヴィエ・グルメ)は訓練所にやってきたひとりの少年フランシス(モルガン・マリンヌ)の後を追う。なぜならその少年はオリヴィエの息子を殺した犯人だったからです。
少年を追いかけるオリヴィエの目線で動く手持ちカメラと思われる映像、男の視線はそのまま亡くなった息子の視線でもあるのですね。息子を失った喪失感、犯人への怒りがオリヴィエから滲み出るようです。なぜ殺したのかと問い詰めたいだろうし、あるいは復讐だってありえると、緊張し、息をひそめるように見てしまいます。普通の父と息子ものとは違いますが、息子を失った父の気持ちが切実で目が離せません。人によって見方は違うと思いますが、オリヴィエは次第に息子の姿を少年に重ねていくような……。見終わったあといろいろな考えが頭をめぐる作品です。
監督: ジャン=ピエール・ダルデンヌ 出演:オリヴィエ・グルメ、モルガン・マリンヌ、イザベラ・スパール、ナッシム・ハッサイーニ
※ほかにも『ジョンQ』『クレイマー、クレイマー』『チャンプ』『幸せのちから』『フィールド・オブ・ドリームス』や日本映画『息子』『そして父になる』など……。父と息子の映画って意外とたくさんあるのです。それぞれ親子の形は違いますが、男性はつい自分に重ねあわせてしまうかもしれないし、女性は父と息子の関係性への理解を深めることができそうです。