雪組トップスター壮 一帆・愛加あゆ――退団(7ページ目)

そして『心中・恋の大和路』の梅川。忠兵衛が一途に惚れる女＝梅川なわけですが、愛加さんは、遊女のスレた感じや色香よりも、はんなりした、男がほっとけない梅川を作りました。ラストの雪山での場面では、ぐんと色気が増し、忠兵衛と並び、ホリゾントへ向かって歩いて行く後ろ姿に泣かされました。

最後の役は『一夢庵風流記 前田慶次』のまつ。男役さんの半歩後ろに控えるような楚々とした雰囲気もありながら、凛とした強さや力も持っている……。まつは、愛加あゆという娘役そっくりでした。


表情が豊かで、情感が豊かな愛加あゆさん。
“娘役”とか“舞台人”とか“演じている”というよりも、生身の人間を感じさせる時がよくありました。だから、愛加さん(演じる役)の喜びや悲しみが、ダイレクトに伝わってくる……。これも、愛加あゆというトップ娘役の魅力でした。

そして何より、大きな瞳の笑顔がとっても可愛い。誰にも愛される、可憐なトップ娘役さんでした。

壮一帆＆愛加あゆ

大輪の花が咲いたような華やかさ、美しさを持ったこのコンビの一番の武器は「日本物の芝居ができる」という点でしょう。

時代と共に日本物の上演が減り、よって、日舞や日本物の所作、化粧に慣れない生徒も増えてきました。そんな中、壮さんは、近年のトップスターの中でも、日本物が抜群に合うと定評のある人。陰での苦労はあったでしょうが、日本物に対する構えを全く感じさせませんでした。スーツ姿で歩くのも、袴や着流しで歩くのも気持ちは同じ。とても自然で、ダイナミックでした。

そんな壮さんについていった愛加さん。楚々とした雰囲気やしっとりした声、また可愛くふっくらしたほっぺの顔が、日本物のカツラや衣装にもとてもよく似合いました。

思えば、トップお披露目もサヨナラも日本物。
かつて「日本物の雪組」と言われた雪組を、再び蘇らせてくれた二人。過去の名作も、この二人に書かれた新作も、華やかな日本物のショーも、もっと観せて欲しかったです。