本公演でのお披露目は『ベルサイユのばら-フェルゼン編-』のフェルゼン。『ベルサイユのばら』への出演は6度目ということで、これまでにジェローデル、アラン、アンドレなどを演じてきた壮さんですが、幕開き、純白の衣装で登場したそれだけで、華やかさと気品溢れるフェルゼンそのもの。美しく、そして大きなフェルゼンでした。
面白かったのが、周防正行監督の同名映画をミュージカル化した『Shall we ダンス?』のヘイリー・ハーツ。宝塚という異空間でいつもかっこいい役を演じているトップスターが、ダンスの下手なさえないサラリーマンを演じるということ自体が異質で、しかしそれを実に素直に、かつ「やっぱりかっこいいなぁ~」と思わせてくれました。
そして世話物の名作、近松門左衛門の「冥途の飛脚」を描いた『心中・恋の大和路』の忠兵衛。人の金にまで手を出してしまうあかんたれを、梅川への想いの真っ直ぐさにより、愛すべき忠兵衛へと表現した壮さんの演技力の高さを痛感。さすが関西人だけあって船場言葉も流暢で、品格のある武士も良いですが、商人も実に味があります。
最後の役は『一夢庵風流記 前田慶次』の前田慶次。天下御免の傾奇者として知られる前田慶次を、威風堂々と豪傑に演じました。
退団公演は、そのトップスターの魅力を一番表現できる作品、役を作るわけですが、時として何か物足りなさを感じる場合もあります。しかしこの前田慶次役は、壮 一帆以外に演じることはできない! 愛馬・松風にさっそうと跨る姿や、迫力のある立ち回りだけをとっても、よほどの存在感や華やかさがなければ、魅せることはできません。
最高の当たり役、最高の花道でした。
壮 一帆という男役は、とてもスタイリッシュでありながら、昭和の偉大な大スターにあった、型にはまらない大らかさがありました。体中を使い、大きく口を開け(それでも美しい!)、ストレートに伝えてくる……。サービス精神旺盛でチャーミングで、まるで自らが一番楽しんでいるよう。そして常に、誠実さと温かさが伝わってきました。
トップスターに就任してから退団まで、他のトップスターと比べると短い期間でした。それがもう何とも淋しい……
ただ、短い期間であったけれど、熟成された芸をしっかりと残してくれました。
壮 一帆……壮麗で勇壮で壮大。
観客に壮観な眺めを楽しませてくれた、華やかで偉大なトップスターでした。