特別な思いを込めた139球
広島市内の土砂災害後、初めてのマツダスタジアムの試合。前田健太は市民球団のエースとしてマウンドに上がった。
特別な思いを込めた139球だった。20日未明の局地的豪雨で多くの犠牲者を出した広島市内の土砂災害。災害発生後初めてのマツダスタジアムでの試合で、鳴り物応援を自粛し、半旗が掲げられた。試合前には球場全体で黙とうが捧げられ、選手たちは左袖に喪章を付けた。「被害にあった方からブログで“唯一の楽しみはカープが勝つこと”とメッセージがあったんです。明るい材料になればと思った」という前田は、市民球団のエースとしてマウンドに上がったのだ。
球宴明けから阪神、巨人との対戦が続いたが、その4試合全てで勝てなかった。前回15日の巨人戦では雨で泥だらけとなったマウンドにいらつき、3回6失点。「ふがいない最低な姿、立ち居振る舞いを見せてしまった。すごく悔しかったし、後悔しかなかった」と振り返る。失いかけた首脳陣やファンの信頼を取り戻さなければならない。そのためには、変わること。良かった自分に戻すこと。だから前田はこの日、ノーワインドアップ投法をやめ、従来の振りかぶって投げるワインドアップ投法に戻した。「状態が悪かったので、気分転換」と前田は言ったが、これでストレートに球威が増した。同時に変化球が生きる相乗効果も生まれた。阪神の4番・ゴメスを4打席4三振に斬って取るなど、「狙って三振が取れた」エースは、気が付けば今季最多の12個もの三振を奪い、完封劇まで演じたのだ。
「しっかり(チームを)引っ張っていけるような投球をしたい。きょうは完封しないと意味がないと思っていました」
まさに鎮魂の白星。これで前田は2010年から5年連続で2ケタ勝利を挙げたことになった。広島で2ケタ勝利を5年以上続けたのは、1986年~91年の川口和久(6年)以来9人目だ。防御率も2.48とし、巨人・菅野(2.58)を抜いて再びリーグトップとなった。前田は2012年、2013年とセ・リーグ4人目の2年連続防御率1位のタイトルを獲得しているが、3年連続となる今季も手にすれば、1956年~58年の稲尾和久(西鉄)に次ぎ、56年ぶり2人目というプロ野球タイ記録となる。
「一にも二にもマエケン。素晴らしい内容だった。いい形でエースが戻ってきてくれた」と野村監督も手放しで喜んだ。「これをキッカケに、乗っていかないといけない。残り試合も少なくなっている。順位を上げるためにも勝っていかないといけない」と前田のエンジンもかかってきた。メジャーリーグ各球団も注目の右腕だが、まずはエースとしてチームを23年ぶりの優勝に導くことに全力を注ぐ。