ファンの意見で読み解く、札幌記念を見るポイント
G1タイトル5つを引っ提げ、札幌記念から凱旋門賞へと向かうゴールドシップ(写真 JRA)
凱旋門賞は、「世界最高峰のレース」とも称されるG1。日本競馬界が追い続けている「悲願のタイトル」です。そのタイトルを目指す2頭が、渡仏前に激突するのですから、盛り上がらないわけがありません。
しかし、どうでしょう。私の周りのコアな競馬ファンと話していると、札幌記念は必ずしも「2頭の一騎打ち」ムードではない様子。むしろ、「2頭は必ずや苦戦する」と断言しているベテラン競馬ファンも多いのです。果たして、その真意はどこにあるのでしょうか。
そこで今回は、私の周りにいる競馬ファンの意見をもとに、2014札幌記念の見方における注意点を探ってみます。
札幌記念が“前哨戦”であることを忘れてはいけない
普通に考えれば、「頂上決戦の凱旋門賞に向けて、2頭は絶対に負けられない」となるはず。競馬歴2年の鈴木さんも、その方向性で札幌記念を見るようです。「ゴールドシップもハープスターも、日本を代表する名馬。だからこそ、札幌記念では2頭がきちんと強さを見せて、フランスに向かってほしいですよね。ですから、希望は2頭のマッチレースになる展開。それ以外の馬に負けてフランスに向かうのは、避けてもらいたいところです」
ゴールドシップは、2011年にデビューし、G1を通算5勝している最強クラスの1頭。ハープスターも、昨年のデビュー以来、強烈な追い込みスタイルで「怪物牝馬」といわれてきた逸材。その2頭が、国内最終戦で力を見せて、そして海を渡る――。鈴木さんの考えは、ある意味当然といえるのではないでしょうか。
しかし、その鈴木さんの発言に対して、「お前は競馬を知らないな」と横やりを入れた人がいました。それが、競馬歴30年の伊藤さん。過去には、友人の結婚式をすっぽかして競馬場に行ったことのあるベテランです。
「なぜ、この札幌記念にゴールドシップとハープスターが出走するのか。それを考えることが大切なんだ。普通なら、有力馬は暑い夏を休養に充てるもの。確かに、札幌は涼しいし、過去には何頭ものG1馬が札幌記念に出走している。そう考えると、決して出ること自体は不思議ではない。でも、今回は話が違うぞ。なぜ2頭が札幌記念に出るのか。その理由をよく考えるんだ」
伊藤さんが指摘した「2頭が札幌記念に出る理由」。このベテラン競馬ファンは意地悪なため、これ以上は説明してくれません。ならば、こちらでフォローしてみましょう。
競走馬に限らず、人間でも「ぶっつけ本番」というのはイヤなもの。ゴールドシップの前走・宝塚記念は6月29日であり、ハープスターはさらにその一カ月前、5月25日のオークスが直近のレースとなります。そして、凱旋門賞の開催は10月5日。となると、直行で凱旋門賞に挑むのは、レース間隔が何ヶ月も開き過ぎていて、ベストパフォーマンスを発揮できなくなる可能性があります。
レース間隔が開き過ぎると、馬の動きにキレがなくなることもあれば、馬が気負い過ぎてリキんでしまうケースもあるもの。そのため、大レースに挑む馬の多くは、本番前に“前哨戦”を使います。
そこで浮上してくるのが札幌記念。凱旋門賞に挑むスター2頭は、同じ理由でこの札幌記念に出てくるのです。そして、それこそが「注意点だ」と、伊藤さんは語るのです。
「2頭にとって札幌記念は、あくまで凱旋門賞を前にした“叩き台”。当然ながら、全力の仕上げでは挑めない。だって2頭は、このあと長距離輸送でフランスまで行くんだ。そして、10月の凱旋門賞で本番を迎えるんだ。となると、ここをピークにして消耗するのは避けたい。
対して、札幌記念に出る他の馬たちは、間違いなく全力をかけてくる。たとえば、昨年の覇者トウケイヘイロー。あるいは、復活をかけるG1馬のロゴタイプ。この馬たちは間違いなく、札幌記念に全力投球だよ」
あくまでこれは伊藤さんの意見ですが、私もおおむね同意します。ゴールドシップとハープスターが100%の仕上げで挑めば、疲れが出て10月までもたない可能性がある。一方、名前の出たトウケイヘイローなどは、ここが目標。そのほかにも、「G1ではなかなか厳しいけど、G2なら……」という馬は、目一杯の仕上げでこの舞台に臨むはずです。
そしてこのとき、伊藤さんの話を聞いていた3人目の競馬ファン、佐藤さんが急に口を開きました。彼は言います、「注意すべきは、ゴールドシップとハープスターが前哨戦ということだけじゃない。2頭のレーススタイルも危険だ」と。
佐藤さんの言葉は何を意味するのか。次ページに続きます。