すべての事象において複数の側面がある

サービス残業は社会悪だという認識に疑問を持たない人はそう多くないと思います。確かにそうかもしれないですが、それは一面的な見方にすぎません。なぜなら、すべての事象において、複数の側面があるからです。それを忘れ、ただ「悪だ」と騒ぐのは思考停止というものです。

サービス残業も同じく、どのような場面でも悪になるわけではなく、シチュエーションによって使い分ければ、上司や経営者から高い評価を得られ、結果としてチャンスを掴みとれることもあります。

これは、派遣会社のマネージャーをやっている知人から聞いた話ですが、最小の労力で最大の効果を上げるサービス残業の方法があると言います。それは、派遣先の上司から認められ、正社員に登用された女性の例でした。

通常、派遣社員は時給で動く。9時~5時が勤務時間なら、その時間分の給料しかもらえない。だから普通の派遣社員は、定時が来たらすぐに帰る。もちろん、そのこれはこれで当たり前のことだし、派遣先企業もそれで文句を言うことはない。

しかしその彼女は、普段はパッと帰るのだが、週に1~2回ほど、それも10分程度のサービス残業をしていたという。

当然、上司の目に止まり、「どうした、帰らないのか?」と聞かれることになったそうですが、その彼女は「きりのいいところまでやって帰ります」と明るく答えていたそうです。仕事が途中だろうと定時が来たら帰る他の派遣社員を見ていればなおさら、この態度に感心しない人はいません。派遣先の上司からは、「責任感のある人物」と映りました。

こうして彼女は「業務に誠実で努力家」と認められ、その上司の推薦もあって正社員に登用されたとのことです。

これが週に1~2回、時間にして10分15分というのがミソで、サービス残業は会社から見ればありがたい話だが、常態化すれば自分が苦しくなる。また、時間が30分、1時間となると、周囲も残業して当然ととらえてしまい、有り難みも薄れる。

しかし週に1回か2回だから目立つ。しかもせいぜい10分15分という「投資」によって正社員というイスを勝ち取ることができた、ということです。

もちろん、この例のようにすべてうまくいくとは限りませんが、ドライな対応が当たり前の世の中になると、この「普段とは違う、ちょっとだけサービス」というのが心に響くのでしょう。期待していない場面で思いがけないサービスは、人の心を打つのだと思います。ちょっとした労力、ちょっとした資金の投下で、「感激を売る」という先行投資ができるのが、チャンスを手に入れる人でもあるのでしょう。

ほかにも、たとえば見積もりを提示される時、「端数だけ値引きしときますね」ということや、ランチ出前のおじさんに「ちょっと大盛りにしといたよ」などがありますね。

居酒屋で「日本酒の残りが少なかったんで、グラスなみなみに入れとくよ」とたまにやって顧客のハートを掴むのがプロのサービス残業というわけです。感激は、人の心を打つ。心に残る。だから客が途切れない。それはビジネスをやる上で、大きな安定感となります。

これを戦略と捉えるかどうかは人それぞれですが、凡人に限って「働いた分はもらうのが当たり前」「残業代が出ないなら働かない」「この金額だからサービスもここまで」という権利意識が強く、こうした先行投資ができないのです。
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