ICL治療はカウンセリングを大切に
――実際にICL治療を受けることになった場合はどのような注意が必要なのでしょう。
撮影:多田裕美子
根木氏 「レーシックでもICL治療でも共通することですが、術前に丁寧なカウンセリングが必要です。というのも、どの程度の視力を適正と感じるかには個人差があるからです。職業や年齢なども含め、その方のライフスタイルをよく考えた上で、術後の見え方について医師と相談しよく納得した上で、目標視力を慎重に決めることが大切なのです」
先にも言ったように、ICL手術は認定医のみが行える手術。 眼科専門医が眼科学会主催の屈折矯正手術講習会の受講、スタージャパン主催認定コースの受講、インストラクターの医師による手術トレーニングの受講という3段階をクリアしてはじめてライセンスが発行されるシステムなのです。
つまり、HPを見てICL治療手術を行っている眼科病院やクリニックであれば、技術は認定されているということ。興味を持ったら、まずは相談してみては。またその中でも親身になって手術後の視力についてカウンセリングをしてくれる病院を選ぶと良さそうですね。
――とはいえ、眼の手術はやはり怖いです……痛みはありませんか?
根木氏 「術前にきちんと検査をし、点眼麻酔もかけますし、その後の鎮痛剤なども処方されますから、きちんと指示を守れば耐えられないような痛みはありません。眼の中にコンタクトレンズを入れるというと『大変なこと』というイメージがあるかもしれませんが、実はこの手術の技術は、白内障の手術の手順と非常に良く似ています。白内障手術はすでに安全性が確立されたものなのですよ」
加齢にともなって起こる白内障は「眼の白髪」と表現されるほど高齢者にとって普通の病気だといわれています。白内障の人の眼に人工水晶体(眼内レンズ)を入れる手術は、年間130万件も行われているというから、近所のおじいちゃんおばあちゃんの中にも受けた人がいるのでは? 実はICL手術は、こんなに身近な白内障の手術とほぼ同じ技術が使われているんだそうです。
――手術は日帰りも可能でしょうか?
根木氏 「可能です。手術そのものの所要時間は片眼10分程と短いのですが、準備や術後の検査もありますので、日帰り手術と考えてください。ただ、当日は車の運転は危険です。車で来院した場合は家族に運転を頼むか、公共の交通機関なら一人でも帰宅できますよ」
一般に、手術の約2時間後に1回目の検査があり、眼の中でレンズがきちんと固定されているかを確認。その後は、翌日、3日目、1週間、3ヶ月と定期検査があります。その後も年に1回の定期検査を受診して常に眼の健康状態を確認しておくと安心だとのこと。
リスク軽減のために開発された「穴あきレンズ」
――合併症などのリスクはありますか?
根木氏 「眼内コンタクトレンズ自体は外傷に強いと言われていますが、あまりに強い衝撃を受けると固定がずれる可能性があります。また、従来のレンズは眼の中の水(房水)の通り道を邪魔してしまうため白内障を誘発しやすいというデータがありました(582眼中 1.9% ※データ出典)。問題を解決するために、2004年から北里大学の清水公也教授が基礎研究を行い、眼内コンタクトレンズの中央に小さな穴を開けた製品の開発を進めてきました」
もとは海外で製造されたレンズに、日本の研究チームが0.36ミリという見え方に影響しない程度の小さな穴をあけた結果、眼内の水の流れに悪影響を与えないことが確認されたそう。穴あきレンズを使用することで、眼内に水が循環し、白内障予防につながる事も確認されました。
この穴のあいたレンズは2014年に厚生労働省から承認を受けています。もし、ICL治療をしている人が加齢とともに白内障になった場合には、入れていたレンズを取り出し、代わりに白内障用の人工水晶体眼内レンズを入れることも可能なのだそうです。
気になるお値段ですが、レーシックが両眼約40万円程度に対し、ICL治療の費用は50~70万円とお高めですが、レンズの種類は約5000種と豊富で多様なタイプの眼に対応可能です(乱視のある場合はカスタムオーダーレンズになるため、価格が少し上がります)。
でも、眼という大切な器官に投資することを考えれば、相応の価値がありそうです。
――ICL治療を今後どんな人に勧めたいですか?
撮影:多田裕美子
これまで、ちょっと怖いかも……と考えていた近視矯正の手術ですが、お話を伺ってみて、その技術がとても進んでいることがわかりました。近視で不便さを感じている人は、専門の医師にきちんと相談した上で、ICL治療も検討してみると、新しい日常を手に入れられるかもしれませんね!
※データ出典:小島隆司 , 『あたらしい眼科28(増刊)』 , メディカル葵出版 , 2011