ベルリン・フィルが自主制作レーベルを立ち上げた意味
Q:自主制作レーベルを立ち上げた理由は?A:ベルリン・フィルはカラヤンやアバドなど歴代の首席指揮者とチクルス(交響曲の全集)を残してきましたが、ここ20年ほど大手レーベルからのリリースが減っていて、現首席指揮者であるラトルの録音は十分ではないため、自分たちでチクルスを出していきたいと思いました。自分たちのレーベルを作ることで、私たち自身が考えるやり方でレパートリーを選択し、商品の仕様を決定しながら販売することができるようになります。録音クオリティや、商品としての質を自ら管理することにより、最も厳しい聴衆をも満足させられるでしょう。
Q:他オーケストラと比べると遅い自主制作レーベルの立ち上げですが、それはなぜでしょう?
A:大手レーベルとの録音が減ってはいるものの、ベルリン・フィルは幸いにも契約が多く継続しており、そちらで動いているプロジェクトとの競合を避けたかったのです。ただ、将来を見越して準備は以前より進めており、例えば第2弾としてニコラウス・アーノンクール指揮によるシューベルト交響曲全集を2014年10月に発売予定ですが、これは2005年に録音されたもので、今回が初出となります。
Q:今回リリースのシューマン交響曲全集はどういった内容なのでしょう?
A:シューマンの交響曲全集のCD2枚だけでなく、全曲の96kHz/24bit高品位音声トラックのブルーレイ・ディスク・オーディオ、さらにハイビジョン映像のブルーレイ・ディスク・ビデオの両方を収めたブルーレイ・ディスク1枚(ボーナス映像付き)、高音質なデジタルデータであるハイレゾリューション音源(最大192kHz/24bit 2.0 Stereoないし5.0 Surround)がダウンロード可能なコード、さらに、ベルリン・フィルのネット映像配信サービス「デジタル・コンサートホール」が7日間無料で利用可能なチケットが入っています。現時点のテクノロジーで、最も質の高い鑑賞ができるサービスを詰め込みました。
Q:装丁もこだわっていますね。
A:はい、製品そのものにもこだわったコレクターズアイテムです。カバーデザインでは、花瓶の写真を載せています。シューマンの繊細さ、もろさを表すために磁器の花瓶というモチーフを思いつきました。プロイセン王立磁器製作所に依頼し、シューマンが生きていた19世紀前半の花瓶の形状と花の柄を採用しました。ですが、裏側を見ると凹みとくすんだ色彩が現れ、精神的に弱い部分のあったシューマンの心の状態を表しています。
ということで、iTunesやYouTubeなど、時代が質を犠牲にしても簡便さの方に向く流れに逆行し、最上級の質を提示してきたところに強い意思を感じます。確かに、低質へ向かうことは簡単ですが、高質に向かうのは本家本元にしかできないですものね。豪華な装丁も、単なる音データではなく、物として愛してほしいという思いをひしひしと感じます。
ベルリン・フィルと言えば、帝王カラヤンが首席時代に録音を積極的に行い、時代を切り拓いてきたオーケストラ。今回の“最高の録音物”を目指した姿勢は、正にベルリン・フィルらしいと言えるかもしれません。
慰めにも似た優しさを感じさせるラトルのシューマン
そして、肝心の演奏の内容はというと、2013年2月と11月にベルリン・フィルハーモニーでライブ録音されたもので、名人集団ベルリン・フィルらしいシューマンに仕上がっています。全般的には、機動的なオーケストラによる豊潤な美。幾分ふくよかで、まろやかな味わいがあると言いますか、豊かに鳴るオーケストラに抱かれるような心地良さがあります。ただ、それだけではなく、却って儚さも感じてしまう天真爛漫さ、不安の心情など、シューマンの繊細な心の襞に寄り添う、慰めにも似た優しさを感じさせるところが流石です。最初にリリースするのが、そうしたシューマンの交響曲全集である、というところに、自らの責任をもって世に問う・世に出す必然があるリリースである意味を強く感じます。
なお、4番はラトルの意思で、多く演奏される改訂版ではなく、1841年の初稿版で演奏されています。ラトルはその理由について「軽快さ、可憐さ、美しさに満ちている」と語っていますが、その言葉が分かる演奏になっています。
今後は、
2014年8月
・このシューマン交響曲全集のLPバージョン
・バッハ「ヨハネ受難曲」ラトル指揮、セラーズ演出
・バッハ「マタイ受難曲」ラトル指揮、セラーズ演出(新デザイン)
2014年10月
・シューベルト交響曲全集 アーノンクール指揮(2005年収録・初出)
さらに先では、ラトルによる、シベリウス交響曲全集、ベートーヴェン交響曲全集などを予定しているそうです。楽しみですね。
最後に、記者会見でマニンガー氏が語った印象的な言葉を記します。それは極めてシンプルながら、一クラシック音楽愛好家の私の胸を、熱くさせたのでした。
「私たちはクラシック音楽を愛しています。今日いらしたあなたたちもそうでしょう? 私たちは、クラシック音楽を愛する方々と、情熱を、共に分かち合いたいのです」