家族や友だちの絆をズタズタに引き裂く壮絶エンタティメント!
『渇き。』(2014年度作品)
自堕落な生活をしている元刑事の藤島(役所広司)は別れた妻(黒沢あすか)から娘の加奈子(小松菜奈)が失踪したと知らされます。藤島は加奈子を探そうとしますが、娘の友だちから聞かされる加奈子は、とんでもない女子高生で恐るべきモンスターのような少女だった……というバイオレンス映画です。
主人公は藤島ですが『渇き。』で印象深いのは、過激に生きるティーンの少年少女たちです。彼らは、傷つけ合わないと生きている実感を得られないかのように感情が麻痺しています。そしてこれは現代の少年少女に通じるものであり、フィクションで片づけられる問題じゃないかも……とさえ思わせるのです。
なぜなら、ゲームやSNSなどデジタルな世界が生活の一部になっている今、リアルとバーチャルの境界線が薄くなり、コミュニケーション能力に欠けている人が多く、人を傷つけても何とも思わない感情ゼロの子供が増えているような気がするからです。この映画に登場する少年少女もそう。恐れ、泣き、傷つけられ、のたうちまわっている人を見てもケラケラ笑っているという……。だから余計怖いと感じるのです。
原作小説は深町秋生の「果てしない渇き」。中島監督が原作を読んで「一行も共感できない。これは逆に凄いことかもしれない。この父親と娘の関係でなら、愛と憎という表裏の感情を表現できるかもしれない」と脚色したそうです。
確かに共感は難しい。何しろ登場人物が皆、表向きは笑顔、でも腹の中は真っ黒という人ばかり。ニコニコしながらも自分の事しか考えていない刑事(妻夫木聡)善き夫のはずが裏の顔を持つ刑事(オダギリジョー)同級生たち(橋本愛、二階堂ふみ)、みんなどうしようもない! それだけに、加奈子に想いを寄せるいじめられっこのボク(清水尋也)が痛々しくて……。
けっこう救いようのない話なのですが、テンポの良さ、色の美しさ、そして華のある役者たちの熱演が、泥沼に落ちて行くような人間のダークサイドをえぐったこの作品をバイオレンスエンタティメントとして成立させています。これぞ中島マジック!と言える映画かもしれません。
2014年6月27日公開
監督:中島哲也
出演:役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、清水尋也、二階堂ふみ、橋本愛、黒沢あすか、青木崇高、オダギリジョー、中谷美紀ほか
(C)2014 「渇き。」製作委員会
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