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一人の漢が掘り抜いた観音浄土 洞窟観音(2ページ目)

群馬県高崎市の洞窟観音は全長400メートルにも及ぶ地下霊場で、なんと全て人力で掘り抜かれたものです。その創設に生涯を捧げた山田徳蔵翁が目指したのは“世界”でした。

坂原 弘康

執筆者:坂原 弘康

寺・神社ガイド

一掘り、一掘り、魂をこめて

洞窟観音内部

洞内に残るツルハシの跡

1916年から建設用地の購入などの準備が進められ、1927年に工事着工。現代のように土木機械のない時代、工事は全てツルハシによる人力で、さらに観音山の地層は大変地盤が固く、あっという間にツルハシはボロボロになり、一日かけて掘り進んだのは僅か数センチという地道な作業。雪が降り続いて、人が集まらない時は奥さんと二人でひたすら掘り続けたこともあったそうです。洞窟は当時の情勢から、緊急時には市民が避難する防空壕として使用することも想定されていました。ここでも「世の為に尽す」という山田翁の信念が感じられます。

洞内の装飾に使われたのは三波石や浅間山の溶岩といった群馬県内各所から集められた選りすぐりの銘石ばかりです。当時山田翁のこの一大事業は地元で大きな話題となり、「山徳に石を持っていけば全部買ってくれる」との噂まで広まり、各所から沢山の銘石が勝手に持ち込まれたそうですが、山田翁はそれもご縁ということで、全て買い取ったそうです。洞内には仏師高橋楽山氏による観音像がまつられ、次々と観音浄土が再現されていき、1964年に山田翁が亡くなるまで約50年にわたってその建設は続けられました。

自分が商人として成功した事も、洞窟観音建設という事業に関わった事も、この世の全ての事はご縁でつながっている。その思いを大切にして生きた山田翁は人生を振り返って、こんなユーモア溢れた句を残しています。

「人間萬事屁の如志 ぶ~と云字も佛成けり」 
山田翁石像

「人間萬事」の句碑を挟んで立つ二つの山田翁の石像。山田翁の現世と来世での姿を表したもの。訪れた人々を笑顔で見守っています

天と地に観音浄土はあり

「洞内の平均温度は17度。夏は涼しく、冬は暖かい。旧山田徳蔵邸の庭園である徳明園の新緑や紅葉もおすすめです。四季折々の風情を楽しめますよ」と山田翁のご子孫で洞窟観音山徳公園維持会の荒井宏介さん。山田翁の意志を継いで、洞内のライトアップや安全対策工事、各諸尊の解説板の設置など、訪れた人たちがさらに洞窟観音に興味をもってもらえるような工夫を重ねています。最近では山田翁に捧げる芸能祭「悠久の魂」(毎年9月に開催)や、人とのご縁を大切にした山田翁ゆかりの園内名所をめぐる「御縁結び巡り」も人気を集めています。

山田翁は同時代人である高崎白衣大観音の建立者、井上保三郎翁とも「井上さんが空を目指すなら、自分は地を潜り続けましょう」と、高崎市の発展を願う良き同志としてお互いに交流を深めたそうです。

天と地、それぞれの観音浄土を作り上げた漢たちの情熱は、今も市民の誇りとして語り継がれています。
新緑の徳明園

新緑に包まれる徳明園。山田翁が洞窟を掘った際に出た土を使って築園したもの。秋には紅葉のライトアップも行われます

徳明園の笑い閻魔と笑い鬼

山田翁遺愛の笑い閻魔と笑い鬼。お酒を飲んで上機嫌の閻魔様に願えば、きっと良いご縁と結ばれるかも

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■洞窟観音
群馬県高崎市石原町2857
027-323-3766
12月26日~12月30日休園
ホームページ:http://www5.wind.ne.jp/yamatokuen/
地図:Yahoo!地図情報
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