エコ住宅をつくる上で知っておきたい5つの視点 ですが、これまで
その1「エコに対する世界基準の視点」
その2「光熱費が生活を大きく圧迫する可能性を知る」
その3「環境負荷が少ないことが重要」
その4「世界基準のエコは建物の躯体強化が基本」
を手に入れていただきました。今回は視点その5「電気に依存しないエネルギーバランスが重要」です。
■視点5 電気に依存しないエネルギーバランスが重要
お湯を電気で沸かすのは、電気のこぎりでバターを切るようなもの
視点その3でもお伝えしましたが、電気はとても貴重なエネルギーです。また、「お湯を電気で沸かすのは、電気のこぎりでバターを切るようなもの」と世界では比喩でたとえるぐらいだという話もしました。2009年のデータですが、日本の住宅における電気の使用割合は表のように42.3%、次いで都市ガスが22.4%になります。用途別としては、照明・家電・他40.9%、給湯34.6%、暖房22.4%、冷房2.1%になります。用途別で興味深い数字がいくつかあります。1つは、給湯の34.6%。日本では湯船をはってお風呂に浸かる習慣があるため、給湯に費やすエネルギーが他の先進国に比べて多いのです。
表のように給湯の熱源を何にするかで全体の1/3のエネルギーの使い方が変わってくるほどです。他の先進国においては、お湯は直接火で沸かす方式をとっているところが多く、日本では、エコキュートなどヒートポンプを組み合わせて効率よくお湯を沸かす方法があり単純に比較は出来ませんが、電気温水器を単独で使っている場合は、非常に熱効率が悪いと言えます。現在お湯を沸かす方法として世界的に注目を浴びているのは、再生可能エネルギーを活用する方法でもある「太陽熱温水」です。日本でも性能の良いものが出ていて、通常1戸建ての場合は大体50万円程で設置が可能です。
お湯を沸かす際、100℃のお湯は必要か?
ここでもう少し太陽熱温水器のことに触れておきましょう。太陽熱温水器とは、文字通り太陽熱で水を温めてお湯にするシステムです。方式は、直接水を温める方法や太陽光で温めた空気でお湯を温める方法などがあります。太陽熱温水器に関しては、今から20数年くらい前にも普及しましたが、故障や耐久性などの問題があり、あまり良いイメージが日本では広がりませんでした。その影響もあり、太陽熱給湯はいまいち日本で普及していません。しかし、太陽光発電に比べると投資コストとエネルギーロスが少なくとても優れた設備として、改めて注目を浴びています。
「真冬にお湯が出来るのかどうか心配」という声もあります。確かに、100℃のお湯を作るには無理があります。しかし、40℃近くのお湯を手に入れるには50℃近くに温められたお湯があれば、十分対応が可能です。天気や気候によって若干お湯の温度が上がらないこともありますが、その時にその他の給湯設備を補助的に活用すれば問題は解決できます。
世界的に使われている電気の主要用途は?
ヨーロッパなどの先進国では、電気は主に照明器具や家電製品に使われます。日本のようにエアコンは気候の違いもありそこまで普及していなく、日本のように高効率のエアコンというものがありません。逆に日本では、世界でも目を見張るほど高性能なエアコンが普及しています。そういった背景もあるため、日本ではエアコンが普及している分、電気に依存していると言えるでしょう。電気に依存しないために根本的にしておきたいこと
エアコンの普及は現在日本にとっても欠かせないものになっています。しかし、車の燃費と同様に、エアコンの性能やエアコンの消費電力を落とすために考えておきたい家の断熱性能なども重要になってきます。家の断熱性能に関して、詳しくはその4「世界基準のエコは建物の躯体強化が基本」に記していますので、そちらをご覧ください。身近に出来る電気消費量を削減する方法とは?
次は具体的に、電気消費量を削減する方法を挙げていきましょう。まず、円グラフをご覧ください。これは、家庭におけるエネルギー消費量の内訳です。「その他」以外の項目は基本的に電気に依存している内容です。
電気消費量の多い順に、エアコン25.2%、冷蔵庫16.1%、照明器具16.1%、テレビ9.9%となり、これらの消費電力を削減することは大きな効果があります。ただエアコンに関しては1つ前の表を見ていただくと、興味深いことが分かってきます。
それは暖房22.4%という数字に対して冷房が2.1%で、冷房で消費するエネルギーは暖房に比べて1/10程度しかないという事実です。この事実を知らない人が多く、暑いのに我慢して熱中症になるケースがここ数年で増加しています。中には、家の中で熱中症が原因で死亡するケースも出てきています。
夏の冷房を我慢しすぎないための方法とは?
なぜ冷房で消費するエネルギーが暖房時のそれと比較してこれだけ少ないのでしょうか?一つには、冷房を使っている期間(年間2~3カ月)に比べ、暖房を使っている期間が長いことが挙げられます。ニュースなどでは、夏前になると「今年は電力が足りないのでは?」と話題になりますが、無理して冷房を入れずに熱中症になってしまうのは、避けたいものです。では、どうすれば冷房を無理せずに使用できるのでしょうか?その方法を下記に挙げてみましょう。
- 10年まえのエアコンの場合は買い替えを検討する
- 夏の暑い日差しを家の中に入れ込まない工夫(簾、カーテン、グリーンウォール)をする
- こまめにエアコンを切ると、逆に電気代がかかることを知っておく
- 家の周りに水打ちをする
- 扇風機を併用する
- 窓を閉めて、除湿器で除湿してから冷房をかける※
- 断熱改修を行う
すぐ出来ることと、お金と時間を要するものもあります。この中で「こまめにエアコンを切るほうが電気代はかかる」ことは、意外だったかも知れません。しかし、エアコンは一定の温度を保つよりも一度あがってしまった室温をもう一度下げる時のほうがエネルギーの消費が大きくなります。我慢してエアコンをこまめに入り切りするのは、エネルギー消費だけでなく体への負担も大きくなることを知っておきましょう。
世界基準をベースとしたエコ住宅が健康にも繋がり、家の資産価値にも繋がる
これまで5つの視点を通じて、本来のエコ住宅の目的は、住む人に快適で、地球環境にも優しいことが重要だということがお分かりいただけたと思います。こういう考えをベースに持った家は、今後どんどんニーズも増えてきて、家の資産価値にも繋がっていくでしょう。そして、ヒートショック被害世界一の日本の住環境を変えていくためにも一人一人が意識していきたいことです。個人的にも建築家として「孫の代に誇れる建築環境を作っていくこと」がとても大切ですし、これらのコラムを通じて、少しでもエコ住宅に対する世界基準の視点を身につけていただければこれ以上嬉しいことはありません。