フランス人はコーヒーが大好きだが…
「フランス人はコーヒーが大好きだが、じつはコーヒーについて何も知らず、ただ苦いだけの水っぽいコーヒーばかり飲んでいます。豆本来のポテンシャルを引きだした風味を楽しめていません」とCOUTUMEのオーナー、アントワンさん。その理由について、彼はフランスのコーヒー史を交えてこう説明します。
「フランス人にとってコーヒーは気付け薬であり、『目を覚ますもの』『元気になる飲みもの』という感覚。もともとコーヒーは王侯貴族の飲みもので、ルイ15世はコーヒー好きとして知られていましたが、市民に広まったのはフランス革命後。これはロブスタ種の安くてまずいコーヒーで、人々は砂糖を加えて気付け薬として飲んでいたのです」
1920年代、パリの五つ星ホテルや高級レストランでは1834年にイギリスで考案されたサイフォンが愛用され、給仕たちがお客さまのテーブルでサイフォンを使ってコーヒーをサーブしていた時期もあったそうですが、「その後は安さ優先の商業的コーヒーが幅をきかせ、70年代のフランスではアラビカ種のコーヒーは高くて売れませんでした」
これ以降2010年代になるまで、「味より価格」というフランスのコーヒー事情に本質的な変化はなかったようです。
メルボルンからロンドンへ、そしてパリへ
パリのCOUTUMEで焙煎したコーヒー豆を空輸して東京・青山店へ。購入して自宅で抽出し、品質の高さを再認識しました。青山店のためのスペシャルブレンドはエスプレッソに適し、ミルクチョコレートの甘み、クルミの風味、デリケートな後味が特徴。
もっとおいしいコーヒーが飲みたい。産地ごとの個性が感じられる多様なコーヒーを楽しみたい。近年、そんな関心が世界的な潮流となり、日本のコーヒーシーンにも多大な影響をもたらしています。
ムーブメントの先進国とされるのが北欧、北米、オーストラリアなどの国々。その流れはヨーロッパにも伝わり、「まずロンドンでコーヒーブームが始まりました」とアントワンさん。
ロンドンのスペシャルティコーヒーの火付け役はメルボルン出身のバリスタたち。かつてイギリスの植民地だったオーストラリア・メルボルンは、世界的に知られるカフェシティなのです。
「メルボルンの優秀なバリスタたちがヨーロッパへ渡った影響で、、ロンドンのコーヒーカルチャーが飛躍的に高まり、2004年の時点で48軒ほどコーヒー店が誕生していたそうです」
そう語るアントワンさんもフランス出身ながら、初めてコーヒーの魅力に開眼した舞台はメルボルン。彼は狩野さんに「5杯のエスプレッソが僕の人生を変えた」と語っています。