食事中の動作は五感をフル活用している!
普段何気なく行っている「食べる」動作ですが、身体の機能をフル活用しています。身体の機能が衰え始めた高齢者は「食べる行為」も若い頃とは変化しています。
料理が目の前に並んでいる状態から、食べ物を飲み込むまでの「食べるメカニズム」について解説いたします。ここから、高齢者の「食べにくさ」の原因が見えてきます。
摂食に関するカラダの仕組み
はじめに少し、解剖学のお話をしましょう。ちょっと難しいですが、丁寧に説明しますので、右側の【図1】を見ながらがんばって読み進めてください。まず、右の図の色からお話します。水色に塗られている部分が外部とつながっている部分。それ以外の白っぽい部分(左を向いた頭の形)が身体です。
「舌(ぜつ)」が真ん中・少し左寄りにありますが、見つけられますか? この上の水色の部分が「口腔」いわゆる「口の中」です。口腔の上の水色部分が鼻の穴から鼻の奥「鼻腔(びくう)」です。そう思うと、鼻の穴の奥には大きな空洞が空いているのですね。舌の右側にある「口蓋垂(こうがいすい)」は俗に言う「のどちんこ」です。口蓋垂の奥が「咽頭(いんとう)」です。さらに、咽頭の中間部分で肺につながる「気管(きかん)」と「食道(しょくどう)」に分岐しています。私たちが息を吸うと空気は気管を通って、肺へ届きます。食べ物やだ液などは、食道を通って、胃へ送られます。
では、実際に食事ではどの部分が作用している?
さて、食事の動作ではどの部分がどのように動いているか、【図2】を元にしながら説明に移ります。(1)で目で料理を見て、鼻で匂いを嗅ぐ。「おいしそう」「食べられる」と認識すると、(2)にあるように手で料理を口に運びます、(3)の「噛む」動作が始まります。このときは歯のみならず、唇(「口唇(こうしん)」)や舌も活躍します。このとき、味や噛んだときの音を口の中で楽しみます(専門用語では口の中でのおいしさを「テクスチャー」といいます)。ここまではなんとなく、無意識にやっていることが多いですが、意識すれば「噛んでいる」などの感覚をつかむことができます。ですが、食べる動作で意識できるのはここまでです。
この先は、食べ物を飲み込むための「反射」が起こります。(4)と (5)はいわゆる「ごっくん」という動作ですが、これは反射的に起こる動作です。ある程度、噛んで食べ物が飲み込める状態(「食塊(しょっかい)」といいます)になったと脳が判断すると、舌で口蓋垂の方向へ食べ物を押します。このとき、食べ物が鼻に入らないよう、「軟口蓋(なんこうがい)」と口蓋垂の間にある「口蓋帆(こうがいはん)(図には部位名が書かれていません)」が鼻腔への通り道をふさぎ、食べ物を喉頭へと送り込みます。
喉頭へ送り込まれた食べ物は「喉頭蓋谷(こうとうがいこく)」という喉のポケットでいったん受け止められます。これにより「食べ物が入ってきた」ことを知った「喉頭蓋(いんとうがい)」は気管に蓋をします。そして、食べ物は気管ではなく食道のほうへ送り込まれるのです。この咽頭蓋による気管の蓋は、空気すら通れないほど、頑丈なものです。このことから、空気以外の何か(食べ物、飲み物、だ液、薬など)を飲み込む際は、人間は必ず呼吸を一瞬、止めています。うそだと思ったら、試しにだ液を飲み込んでみてください。息を止めずには飲み込めないはずです。そして、このとき、気管への蓋がしっかり閉じられておらず、食べ物などが気管を通って肺へ入っていってしまった状態が「誤嚥(ごえん)」です。
こうして、無事に食道へ送り込まれた食べ物は、食道を通過して胃へと到達します。この飲み込むための反射が非常に重要なのです。
今回は、解剖学の話をしたので、難しかったかもしれません。しかし、このメカニズムさえ分かっていれば、高齢者の「食べづらさ」の原因が見えてきます。大雑把でかまわないので、理解しておきたいものです。
さらに、実際の生活のうえで、注意するべき点については「高齢者は食べるのも命がけ…誤嚥性肺炎の原因と対処法」で詳しくお話します。