介護/食事・口腔ケア

「食べる動作のメカニズム」と食事の関係

私たちは何気なく食事をしています。その動作のなかで、特別なことを意識しているわけではありません。生まれた時からただ普通に行っている、何気ない日常の動作です。しかし、実は「食べる」ことは五感をフル活用して食事をしています。私たちが食事をする時、どのように五感を活用しているのか身体の動きと食事の関係について解説します。ここから高齢者の「食べにくさ」の原因が見えてきます。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

食事中の動作は五感をフル活用している!

パンを食べる老女と孫

普段何気なく行っている「食べる」動作ですが、身体の機能をフル活用しています。身体の機能が衰え始めた高齢者は「食べる行為」も若い頃とは変化しています。

私たちは日常生活のなかで何気なく食事をしています。食事自体を特に難しいと感じたこともほとんどないでしょう。しかし、実は“食べること”は五感をフル活用していて、思った以上に高度な動作なのです。

料理が目の前に並んでいる状態から、食べ物を飲み込むまでの「食べるメカニズム」について解説いたします。ここから、高齢者の「食べにくさ」の原因が見えてきます。


摂食に関するカラダの仕組み

咽頭解剖図

【図1】口から喉を通って胃に到達するまでの解剖図です。難しく見えると思いますが、これを理解すると介護の基本がすべて理解できます。(クリックで拡大)

はじめに少し、解剖学のお話をしましょう。ちょっと難しいですが、丁寧に説明しますので、右側の【図1】を見ながらがんばって読み進めてください。

まず、右の図の色からお話します。水色に塗られている部分が外部とつながっている部分。それ以外の白っぽい部分(左を向いた頭の形)が身体です。

「舌(ぜつ)」が真ん中・少し左寄りにありますが、見つけられますか? この上の水色の部分が「口腔」いわゆる「口の中」です。口腔の上の水色部分が鼻の穴から鼻の奥「鼻腔(びくう)」です。そう思うと、鼻の穴の奥には大きな空洞が空いているのですね。舌の右側にある「口蓋垂(こうがいすい)」は俗に言う「のどちんこ」です。口蓋垂の奥が「咽頭(いんとう)」です。さらに、咽頭の中間部分で肺につながる「気管(きかん)」と「食道(しょくどう)」に分岐しています。私たちが息を吸うと空気は気管を通って、肺へ届きます。食べ物やだ液などは、食道を通って、胃へ送られます。


では、実際に食事ではどの部分が作用している?

さて、食事の動作ではどの部分がどのように動いているか、【図2】を元にしながら説明に移ります。

五感の一覧表

【図2】私たちは食事をする際、五感をフル活用しています。どのタイミングでどの五感を使っているか一覧表にしてみました。


(1)で目で料理を見て、鼻で匂いを嗅ぐ。「おいしそう」「食べられる」と認識すると、(2)にあるように手で料理を口に運びます、(3)の「噛む」動作が始まります。このときは歯のみならず、唇(「口唇(こうしん)」)や舌も活躍します。このとき、味や噛んだときの音を口の中で楽しみます(専門用語では口の中でのおいしさを「テクスチャー」といいます)。ここまではなんとなく、無意識にやっていることが多いですが、意識すれば「噛んでいる」などの感覚をつかむことができます。ですが、食べる動作で意識できるのはここまでです。

この先は、食べ物を飲み込むための「反射」が起こります。(4)(5)はいわゆる「ごっくん」という動作ですが、これは反射的に起こる動作です。ある程度、噛んで食べ物が飲み込める状態(「食塊(しょっかい)」といいます)になったと脳が判断すると、舌で口蓋垂の方向へ食べ物を押します。このとき、食べ物が鼻に入らないよう、「軟口蓋(なんこうがい)」と口蓋垂の間にある「口蓋帆(こうがいはん)(図には部位名が書かれていません)」が鼻腔への通り道をふさぎ、食べ物を喉頭へと送り込みます。

喉頭へ送り込まれた食べ物は「喉頭蓋谷(こうとうがいこく)」という喉のポケットでいったん受け止められます。これにより「食べ物が入ってきた」ことを知った「喉頭蓋(いんとうがい)」は気管に蓋をします。そして、食べ物は気管ではなく食道のほうへ送り込まれるのです。この咽頭蓋による気管の蓋は、空気すら通れないほど、頑丈なものです。このことから、空気以外の何か(食べ物、飲み物、だ液、薬など)を飲み込む際は、人間は必ず呼吸を一瞬、止めています。うそだと思ったら、試しにだ液を飲み込んでみてください。息を止めずには飲み込めないはずです。そして、このとき、気管への蓋がしっかり閉じられておらず、食べ物などが気管を通って肺へ入っていってしまった状態が「誤嚥(ごえん)」です。

こうして、無事に食道へ送り込まれた食べ物は、食道を通過して胃へと到達します。この飲み込むための反射が非常に重要なのです。

今回は、解剖学の話をしたので、難しかったかもしれません。しかし、このメカニズムさえ分かっていれば、高齢者の「食べづらさ」の原因が見えてきます。大雑把でかまわないので、理解しておきたいものです。

さらに、実際の生活のうえで、注意するべき点については「高齢者は食べるのも命がけ…誤嚥性肺炎の原因と対処法」で詳しくお話します。


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