裁判員制度は辞退できる?
やむを得ない理由で辞退することはできるが……
【相談例】
『私は大手家電メーカーの中間管理職(課長)で仕事が忙しく、裁判員に選ばれたら仕事に穴を開けてしまいます。もし、私が裁判員に選ばれた場合、仕事が忙しいことを理由として、裁判員を辞退することはできるのでしょうか?』
裁判員に選任されたら辞退できないのか?
裁判員に選ばれると、一切辞退できないのでしょうか?いろいろな状況の方がいますので、「裁判員に選ばれたら、必ず裁判に参加して下さい」と義務づけることは、難しい面があります。そこで、一定の場合には、裁判員を辞退することが認められています。「裁判員法16条」に定められている辞退事由は下記のようなものがあります。- 70歳以上の人
 - 地方公共団体の議会の議員(会期中のみ)
 - 学生・生徒
 - 5年以内に裁判員や検察審査員などの職務に従事した人
 - 3年以内に選任予定裁判員に選ばれた人
 - 1年以内に裁判員候補者として裁判員選任手続の期日に出頭した人
 - やむを得ない理由で、裁判員の職務を行うことや裁判所に行くことが困難な人
 
裁判員を辞退できる「やむを得ない理由」とは
1から6までは、はっきりしていますが、7の「やむを得ない理由」というのは曖昧ですね。これがどんな場合であるかについては、裁判員法16条8号と政令で規定されています。具体的には、以下のようなものです。- 重い病気・傷害の場合
 - 同居の親族の介護・養育をする必要がある場合
 - 従事する事業の重要な用務であって、自分で処理しないと事業に著しい損害が生じるおそれがある場合
 - 父母の葬式への出席など社会生活上の重要な用務があって、他の期日に行うことができない場合
 - 妊娠中であったり、出産の日から8週間を経過していない場合
 - 重い病気・傷害の治療を受ける親族や同居人の、通院・入退院に付き添う必要がある場合
 - 妻や娘の出産に立ち会ったり、出産に伴う入退院に付き添う必要がある場合
 - 住所や居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地にあり,裁判所に出頭することが困難である場合
 - 裁判員の職務を行ったり、裁判員候補者として出頭することにより、自己または第三者に、身体上、精神上、経済上、重大な不利益が生ずると認められる相当の理由がある場合
 
仕事が忙しいときに裁判員制度の辞退は可能か
では、仕事が忙しいときは、裁判員を辞退できないのでしょうか?上記のとおり、「従事する事業の重要な用務であって、自分で処理しないと事業に著しい損害が生じるおそれがある場合」であれば、仕事が忙しいことを理由に裁判員を辞退することはできます。しかし、そうでない限り、仕事を理由に裁判員を辞退することはできません。「従事する事業の重要な用務であって、自分で処理しないと事業に著しい損害が生じるおそれがある場合」に当たるかどうかは、
- 裁判員として職務に従事する期間
 - 事業所の規模
 - 担当職務についての代替性
 - 予定される仕事の日時を変更できる可能性
 - 裁判員として参加することによる事業への影響
 
裁判員としての参加が困難な場合の事例とは?
なお、最高裁判所では、裁判員候補者の職業や生活スタイル別に聞き取り調査を実施し、裁判員としての参加が困難な場合などの事例集をまとめました。聞き取り対象となった職業には、農・漁業従事者から建築関係者、メーカーの技術者や営業マン、医師や住職、また派遣社員、アマチュアスポーツ選手などが広範囲に含まれ、今後は各地方裁判所が辞退可否の判断材料とする予定だそうです。以下、いくつかピックアップしてみたので、参考にしてください。- 卒業・入学式シーズンの美容師
 - 飲食店のナンバー1ホステス
 - 仕込み時期の杜氏(とうじ)
 - 旅館の女将(おかみ)
 - 子供が受験直前の主婦
 - 降雪・積雪で裁判開催都市への移動が困難な遠隔地居住者
 - 種付け時期がずれると翌年の仕事がだめになるカキ養殖業者
 - 株主総会時期の経営者
 - システムトラブル発生時に対応が求められる情報処理SE
 - 接待の必要がある営業職
 - オーディションがあるテレビ出演者
 - 記者会見に出席しなければならない新聞記者
 - ダイヤ改正時の鉄道会社の担当者
 - 初詣でや海水浴場などに近い店舗の書き入れ時のコンビニ従業員
 - インフルエンザ流行時や花粉症の時期の一般診療所の医師
 - 学年初めや学年末の教師
 - 株価指数先物・オプションの特別清算値(SQ)の算出日や、各国政策金利や米雇用統計の発表など、市場動向や取引量に影響を与えるイベントがある時期の金融トレーダー
 - 選手として大会に参加する予定のアマチュアスポーツ選手
 - 患者が増加する冬季や人手不足の場合の産婦人科や小児科の医師
 - 展示会や商談会の開催日など、契約が成立する場合が多い日の歩合制の営業職
 - 新規開店当日や開店直後など、トラブル対応などが求められる時期の小売店の店長
 - 顧客から指名があった場合のフリーカメラマンなどインディペンデント・ワーカー
 - 低学年の子供を有する一人親で、子供が病気やけがをした場合
 - 祭り時の離島居住者
 
なんだか、納得がいくものもあれば、「ん?」と首をかしげてしまうものもありますね。「飲食店のナンバー1ホステス」であることが辞退を考慮する事情になるなら、「ナンバー2」のホステスはどうなんだ?など。あくまで、一事情として、考慮するというだけなので、上記にあてはまるから辞退できるとか、上記にあてはまらないから辞退できないというわけではありません。結局は、ケースバイケースです。その際、代替性が利く仕事かどうかというのは、判断する際の大きな要素となるようです。
さて、ご相談のケースでは、相談者は大手家電メーカーの営業課長とのことですから、事業所の規模が大きく、課長代理を立てるなどすれば、職務の代替性が認められることからして、「仕事が忙しい」というだけでは、裁判員を辞退することは難しいと思われます。うまく仕事と折り合いをつけて、裁判員として、刑事裁判に参加してみれば、きっと、刑事裁判というものを、より身近に感じることができると思います。
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