新宿の戦前モダン系建築
■小笠原伯爵邸新宿の繁華街からは少し離れた新宿区河田町に建つ、昭和初期建築マニアには、よく知られた日本では少ないスパニッシュ風の建築。竣工は1927(昭和2)年。礼法の宗家で有名な小笠原家第30代当主、小笠原長幹伯爵(旧小倉藩主)の本邸で、さすがに華族のお屋敷だっただけに、その装飾たちは華麗です。
正面は鉄(鋳物)とガラスで有機的なデザインでつくられたひさしがアール・ヌーボー期の地下鉄の入り口を思わせます(ヌーボーの代表的な有名なパリのエクトール・ギマールのものよりはモダンですが……)。陶器でできたオウムやガラス製のハトやツタ模様など、どちらかというと女性的なモチーフで彩られています。
現在、このお屋敷はレストランとなっていて、食事はもちろんウェディング、パーティーなどにも使われています。ケーキとお茶だけでもオッケーなので確認してぜひ訪れてみてください。伯爵気分になれる豪奢なインテリアも見もの! 最寄り駅は大江戸線・若松河田駅ですが、新宿の繁華街からも徒歩20分程度です。写真上:建物正面から、写真下:建物裏側の装飾。
設計は曽禰中條建築事務所。この事務所は、曽禰達蔵(そね・たつぞう、1852~1937年)と中條精一郎(ちゅうじょう・せいいちろう、1868~1936年)氏によって1908(明治41年)に創設された日本初で戦前最大の民間の建築事務所。他に明治・大正時代に、慶応義塾大学図書館や如水会館などの設計も行っています。
■伊勢丹新宿本店
新宿三丁目交差点にある、いわずと知れた老舗百貨店。丸に「伊」の字の入ったマークは創業時から使われていて戦前は大久保方面からも、この赤い筆文字が見えたそう。竣工は1933(昭和8)年。「モボ・モガ」の時代ですね。竣工当時は2階にアイススケート場もあったらしいので、最先端のテーマパークでもあったのでしょう。
概観の建築様式は、当時、世界中で流行していた「アール・デコ」と呼ばれる直線や幾何形体を多用したデザイン。ですが、いわゆるベタな「デコ感」は少なくクラシカルな西洋古典建築様式、垂直性を強調したゴシックの要素も折衷されている感じです。設計は清水組(現・清水建設)。好きなデパートランキングでも若い女性を中心に常に上位にランクイン。本館5階のインテリア売場には内外のデザイナーズ家具が充実しています。
2013年、内装を全面リニューアルしてインテリアはシックな内装になり、靴売り場には「シャンパン・スタンド」も。「売り場の中にスタンドができるっていうのは、私が知る限り60年代以来。伊勢丹のリニューアルでいちばん成功した点だと思うんですね。昔はホットドッグスタンドとかがあったの」(ジャズミュージシャン・文筆家でデパート評論家(?)菊地成孔さんのラジオでの発言より抜粋)。
■旧・四谷第五小学校
新宿の酉の市で有名な花園神社のとなりゴールデン街の裏側にあった、1934(昭和9)年に建てられたもの。1980年代に新宿をウロウロしているときに発見。「わっ、バウハウスだ」と思った私は、友人とともに日曜日の夕方に当直の先生んにお願いしてこの建物に入れてもい案内してもらったことがあります。
ガラスで覆われた半円の階段室、白い外観、水平巣直を基本としたデザインは、まさに「インターナショナル・スタイル(国際様式)」そのもの。このスタイルは、最初にバウハウスのヴァルター・グロピウスが提唱したもの(『バウハウス叢書第1巻・国際建築』1925年)。グロピウスが国際様式を唱えてから9年後に日本でこのスタイルを採用し完成させた設計担当の当時の東京市・営繕課やるな~、といった感じです。
校庭だった場所には、今はドーンと新宿区保険所、その脇に吉本協業をL字型に囲むように新宿区役所の分館が建てられています。この建物は、Docomomo(モダン・ムーブメント建築の保存などを行うパリが本部の国際組織)から、同潤会アパートなどとともに認定されているのに新宿区役所さん、ちょっと無粋です。
現在は、リノベーションされてエンターメント企業として知られる「吉本興業」の東京本部が入っています。写真のように現在ではゴールデン街側の裏側からしか見ることができませんが、半円の階段室などバウハウス感が見て取れます。校庭から見たファサードが美しかったのですが…。