ホースマンが目指す最高峰のタイトル
「日本ダービー」
同じ歳の馬だけで戦うこの時期の3歳馬にとって、その最大目標となるのがG1日本ダービー(芝2400m、東京競馬場)。3歳馬の戦いの中心に位置付けられ、「競馬界最高峰のタイトル」とされています。3歳の牝馬(メス)は、基本的にダービーの1週前に行なわれるG1オークス(芝2400m、東京競馬場)で覇を競います。2014年の日本ダービーは6月1日(日)に行われますが、多くの年では5月末の開催。ということで、ここでは「5月の注目レース」として紹介します。
サラブレッドが牧場で生まれたとき、それを見守るスタッフは「ダービー馬になってくれ」と願います。仔馬が成長していざデビューするとき、「ダービーに出られるような活躍を見せてくれ」と期待します。競走馬を育てるうえで、常に目標となるのがダービーなのです。しかもその舞台は、3歳馬しか出られない一生に一度のもの。ダービーに出走する馬たちは、多くの人々の思いを背負って、その戦いに挑むわけです。
舞台となるのは、国内屈指の広さを誇る東京競馬場。となれば、実力伯仲の勝負が繰り広げられるはず……。と思いきや、サラブレッドの3歳春は、人間で言う高校3年生くらい。つまり、まだまだ未熟なのです。そのため、実力を出し切れなかったり、途方もない緊張感に押し潰されたり、一筋縄ではいきません。そこで昔から言われるのが、「ダービーは、運のいい馬が勝つ」という格言です。
といっても、運だけでダービーを勝つことはできません。先の格言を補足すれば、運さえも味方につけなければ勝てないのがダービー。これはあながち嘘ではない話で、その証拠にダービーではたびたび不思議なことが起こります。
64年ぶりの快挙につながった、ウオッカの落ち着き
不思議な日本ダービーとして思い出すのは、2007年。この年の勝者となったのは、牝馬ながらダービーに参戦したウオッカでした。牝馬がダービーに勝つのは、なんと64年ぶり。その快挙の勝利こそ、まさに不思議なダービーの典型と思うのです。2007年の日本ダービー(ウオッカは黒帽子の7番)
レースでは少し力みがちになるウオッカにとって、ゆったりとしたペースで進む長距離戦は得意ではありません。大人になって、精神的に成長すると好走できるようになったのですが、ダービーに出た3歳シーズンは、長距離となる2200m以上のレースに4度出て、1着→8着→4着→11着という成績。その中で唯一の勝利が、日本ダービーだったのです。
あの日本ダービーではリラックスできたウオッカ。直線までジックリと体力を温存し、最後に突き抜けたのです。若い頃のウオッカにとって、長距離のレースであんな競馬ができたのはダービーだけ。なぜあのときはリラックスできたのか。しかもその「唯一」を発揮できたのが、最高峰のダービー。それが不思議でしたし、そこに運の存在を見た気がします。
もしかするとウオッカは、ダービーを勝つにふさわしい能力を持ち、そして運も味方につけたのかもしれません。
いずれにせよ、このような不思議の中で数多くのドラマが生まれてきたのが、日本ダービーです。
なお、「オンナ版ダービー」と言えるのがオークス。こちらも同じ距離、同じコースで施行されます。この時期の牝馬にとって、2400mは過酷な長距離。そのため、スタミナが勝利への大きなカギになります。