住まいのプロが提案「イエコト」/プロが提案!住まいのヒント

建築家ってアーティストなの? それともエンジニア?(2ページ目)

住まいづくりのプロフェッショナルには、さまざまな人びとがいます。「建築家」「建築士」「インテリア(空間)デザイナー」「工務店」「ハウスメーカー」「ゼネコン」などなど、多岐にわたります。ですが、それぞれの職種の人たちの仕事の範囲、違いは何でしょう? 今回は、「住まい」に関わる職業の方々、特に「建築家」についてマメ知識的に、疑問に思ったことや考えたことなどをお伝えします。

喜入 時生

執筆者:喜入 時生

インテリア・建築デザインガイド

建築家は「ハコ」をつくるだけなの?

ここで、いちど建築家=Architectの歴史を、軽く振り返ってみまることにしましょう。たとえば、みなさんご存知のシェルチェアで有名なチャールズ・アンド・レイ・イームズ。この夫妻は日本では椅子のデザイナーとして語られることが多いですが、基本は建築家。そして映像作家でもあります(短編映像『パワーズ・オブ・テン』は名作!ご覧になったことがない方は、ぜひ観てください)。イームズ夫妻は多彩な才能を発揮していて建築家というだけでは、くくることができない活動を行っています。

仲良しとしても知られるイームズご夫妻。戦後の全世界のデザイナーに与えた影響は絶大です。イラスト:tetsushi

イームズ夫妻は、建築家仲間のエーロ・サーリネン、リチャード・ノイトラらと「ケーススタディハウス」という一連の住宅をデザインしています。ケーススタディハウスは、アメリカで戦後に増えた住宅の需要にこたえて廉価で規制の工業部材を使い効率的で、誰でも設計可能な住宅を連作した建築史上に残る実験。特にイームズ邸としても知られるナンバー8は有名で、インテリアはもちろんイームズデザインの家具が設置されています。建築、インテリアから映像までを同一にとらえたデザイナー、イームズ夫妻。ハンパないです!
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「ケース・スタディ・ハウス」の8番目の家としてイームズ夫妻によって設計された自邸。工業部材を使ったインダスストリアルな雰囲気がステキです!!

さかのぼって19 世紀のイギリスの話となりますが、今は壁紙の植物や花柄のパターンで知られるウィリアム・モリスも建築だけでなく、さまざまな創作活動を行ったことで知られています。著名な赤レンガのロンドン郊外の自邸「レッド・ハウス」はフィリップ・ウェッブとの共同設計とされていることもありますが建築学校出身のモリスが主導権を握っていたのではないかとも思われます。

あかいいえ

1859年モリスの自宅として建てられたレッド・ハウス。日本でも「赤い家」として知られていて観光地としても人気スポットです。

モリスは、建築、家具はもちろん、エディトリアル・デザイン=本の装丁などまでも行っています。フォント(書体)のデザインから、印刷物の空白部分の比率(マージン)のデザインも行いました。いまでもエディトリアル・デザイナー、装丁家の基本デザインとして、その美しいレイアウトスタイルが支持されています。「モダン・デザインの父」と呼ばれることも納得できる才人です。空間からグラフィックまでを同じ感性でとらえるセンスには脱帽。商業的にも「モリス商会」でさまざまな工業商品を販売したビジネスマンの一面ももっています。
もろりすかべがみ

モリスがデザインした壁紙「WILLOW BOUGHS」。手前の椅子は盟友ウェッブが設計したサセックス・チェアで「モリス商会」のヒット商品のひとつです。

戦後の近代の建築家を考えてみましょう。ご存知のル・コルビュジエは1934年になんと自動車の設計も行っています。「マキシム・カー」と呼ばれるそのデザインは、後のBMWイセッタ300やフォルクスワーゲン、シトロエンなどのカーデザインに影響を与えました。同時期にウォルター・グロピウス、フランク・ロイド・ライトなどのモダニズム建築家も自動車設計のプロジェクトに関わっています。このムーブメントは時代が、いわゆる「マシン・エイジ」であったという背景もありそうですが……。
こるくるま

コルビジュエがデザインした自動車を紹介した洋書の表紙。現代のコンパクトカーにも通じるモダンデザインです。

イタリアの建築家、レンゾ・ピアノは日本では関西国際空港、パリのポンピドー・センターの設計で知られています。その工業的で構造やマテリアルをあえて見せる、いわゆる「ハイテック・デザイン」は、1970年代以降の近代デザインのひとつの潮流になりました。ピアノは、時計メーカーのスウォッチから、構造が透けてみえる腕時計を発表したり、イタリアで「イデア」というカーデザイン主体のユニットをつくってフィアットの自動車をデザインしています。
ぴあのくるま

ピアノがデザインした1980フィアットVSSのプロトタイプ。出典:イデアホームページ

レンゾ・ピアノ事務所のチーフアーキテクトだった建築家の岡部憲明さんは、帰国後、2004年に小田急ロマンスカー「VSE」の車両をデザインしています。乗ってみたことがありますが、建築・インテリアを強く感じさせる仕上がりで、鉄道マニア「鉄ちゃん」にも人気です。「VSE」のVは「ヴォールト天井(半円形の天井)」の意味。建築用語ですね。ほかに日本人建築家では1994年に若林広幸さんが関西で「ラピート」という特急車両のデザインを行っています。
おだきゅう

岡部憲明さんデザインの新世代ロマンスカー「VSE」。iF product desigh award 2007 デザイン賞受賞など数々のデザイン賞を獲得しています。出典:ウィキペディア

らぴとなんか

「レトロフューチャー」をデザインコンセプトとした建築家・若林広幸さんデザインによる特急車両。出典:南海電鉄

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