住みたい街 首都圏/住みたい街の見つけ方

街歩きから始まる住まい選び

しかつめらしく言えば不動産の価値は立地である。とすると住まい選びは街選びから始まるものであり、街を知るためには歩いてみるのが一番。最近、登場し始めた住まい選びを意識して街をガイドする人たちを紹介しよう。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

鎌倉に家を建てるための要件を歩きながら学ぶ
大人の街歩き(鎌倉)

段葛

首都圏から日帰りできる観光地として、海と山に囲まれて暮らせる場として人気の鎌倉(クリックで拡大)

神奈川県内にはいくつか人気のエリアがあるが、そのうちのひとつがかつて幕府が置かれた歴史の街、鎌倉。目の前に海、それ以外を山に囲まれた立地は海も、山も身近という、関東平野周辺では珍しい、変化に富んだ風景を生み出し、そこに歴史がアクセントを添える。根強いファンがいるのも無理はない場所である。さらに最近では相続のためか、比較的買いやすいサイズの宅地の販売が増えており、若い世代の移住も増えているという。

 

寺社

寺社が土地を所有、借地権で売買されるなどの例も多く、それが土地購入、一戸建て建設の際のデメリットになることも(クリックで拡大)

とはいえ、鎌倉は急傾斜地、景観を保存すべき地域などが多く、かつ階段利用の土地、旗竿地、変形敷地など、一筋縄ではいかないような土地が少なくない。そのため、単純にマンションを建てる、建売一戸建てを建てるなどといった手法がとれない場所もある。もちろん、鎌倉に限らず、一戸建てを建てる場合には、その街ごとに異なる要件を知る必要があるが、特に鎌倉にはそうした制限が多いと考えれば良いと思う。

 

鎌倉の路地

鎌倉の路地を歩く参加者たち。知らなければ分からないような路地も多い(クリックで拡大)

その鎌倉を愛する建築家やその他専門家が集まった作った一般社団法人ひと・まち・鎌倉ネットワークが、2013年9月から「大人の街歩き」と称した街の案内ツアーを実施している。私も初回の散歩に参加、建築家の方々に引率されて鎌倉駅に比較的近いエリアを歩いてきた。歩きながら、地域の相場やら建築上の制限などについて話を聞いたり、建築家の人が建てた家を覗いたり……。

 
遺跡

鎌倉の建設現場ではこんな風景をよく目にする。遺跡の上にある街だけに仕方がないといえば仕方がなく……(クリックで拡大)

面白かったのは鎌倉ならではの制限。ひとつは鎌倉市で家を建てる時には建築主の負担で埋蔵文化財の発掘調査をしなければならないという点。鎌倉では市内の60%以上が埋蔵文化財包蔵地として指定されており、このエリアで土木・建築工事などを行う場合には、文化財保護法の規定により(詳細は省略)、発掘調査が必要とされることが多いのである。自宅として建てる場合、調査費用自体は市が国の補助を得て行うものの、問題は調査にかかる期間は工事が進められないという点。調査担当が少ないためか、参加した2013年9月時点では8カ月(!)待ちだという。その期間、工事が止まるとするとその間の家賃、ローンを借りている場合の金利その他、余分な出費が増えることは想像に難くない。これから鎌倉に家を建てたい人は要注意事項だ。ちなみに埋蔵文化財が発見される例は地下60cm以上の場合が多いとのことで、そこまで土地をいじらない場合には調査不要となる。

 

また、鎌倉市は特に埋蔵文化財包蔵地が多いが、それ以外の街に同様に調査が必要な場所がないかといえばそんなことはなく、国分寺市や府中市にも多いし、あまり縁のなさそうな東京都千代田区でも82カ所、葛飾区には28カ所など、意外にあちこちに点在している。東京都に関しては東京都教育委員会が遺跡地図情報をインターネットで提供しているので、そうしたものを参考にすると良いと思う。
●参考URL
東京都遺跡地図情報インターネット提供サービス
鎌倉市の埋蔵文化財の取り扱いについて

美しい緑

鎌倉は周囲の山だけでなく、住宅の植栽としても豊富な緑があり、それが美しい景観を形作っている(クリックで拡大)

また、地域によっては土地面積に対して植栽の比率が決められていることがある。そこで工事の際に邪魔だからと樹木等を伐採、更地にしてしまうと、後日、その比率を満たすために新たな植栽を用意せねばならず、二重の出費になることがあるとか。住宅メーカーは建物の建設までしか面倒を見てくれないから、外構費用についてはあらかじめ予算取りをしておく必要があるが、そこで決まりごとがあるとしたら、後で自分でやるという方式にはできない。鎌倉市に限らず、景観、緑の維持に熱心な自治体であれば、この点も注意が必要だろう。

 

自邸

階段を上った谷戸に建つ建築家自邸。谷戸に暮らす大変さ、楽しさなども教えていただいた(クリックで拡大)

以上、散歩自体でもいろいろ勉強になったのだが、最後にもっとも面白かったのが、その日ガイドをしてくださった建築家の自邸を見学させていただいたこと。家を建てたいと思う人であれば、他の家を見ることはおおいに参考になるが、なかなかそうしたチャンスは少ない。が、このツアーではまったく異なるテイストの家を3軒も見せていただけ、それだけでも参加して良かったとしみじみ。鎌倉に限らず、他の街でもこうしたツアーがあれば、その街で家を建てる人にはおおいに参考になると思う。

 

大人の街歩き

この地に家を建てた人の話を熱心に聞く参加者。これは第1回目の様子(クリックで拡大)

このツアー、2013年9月に始まり、同年11月、2014年2月と過去に3回行われており、各回12人が参加、複数回参加している人もいらっしゃるので、延べ人数は30人ほどとか。歩いたのは浄明寺、北鎌倉、鎌倉の海近くエリア。大人の街歩きの企画に携わる建築家の倉本琢さんによると「今後は極楽寺、稲村ヶ崎、長谷などを歩く回を考えています。特に長谷は店を持ちたいという人が多いエリアなので、そうした内容もいいかなと。ただ、4月から6月の鎌倉は非常に賑わうので、年中そんな感じと思われても困るので、実施は少し先になるかもしれませんが」とのこと。住みたい場所があるのなら、とりあえず、賃貸利用で試しに住んでみるのがお勧めだが、そこまではできないとしても散歩くらいならと思う。

 

●「大人の街歩き」についてのお問い合わせは
一般社団法人 ひと・まち・鎌倉ネットワーク

続いて街を歩いて物件を見て歩くディスカバリーツアーをご紹介。

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