ぐんぐん成長する子どもを気持ちよく描いた『アルノとサッカーボール』
アルノがパパにもらった、ピカピカ光るサッカーボール。出がけにママが「大事にするのよ」と言うくらい、「すごくいい」宝物のボールですが、知らない子たちに誘われてそのボールで試合をすることになりました。
ボールを使いたくないという思いや、試合が始まってからの充実した姿、家に帰るのが遅くなりママに叱られてもへっちゃらな様子がストレートに描かれており、アルノの揺れる心が手に取るように分かります。特別元気だとか、抜群に運動神経がいいとかいうわけではない、どこにでもいそうな「普通」の少年アルノ。そのアルノが、やはりいつも通りの毎日で、サッカーボールをきっかけに友達に出会い大きく成長する過程は、無理がなくとても気持ちがいい!
こういった微妙な心境の変化は、きっと子どもたちも共感できるはず。サッカーが好きな子はもちろん、そうでない子でも楽しめる絵本です。
モノより友達! アルノの一歩を助けるみんなのことば
みんなで走る喜びに勝るものなし!
アルノも、ボールをしっかり抱えたまま、なかなかサッカーをすることができません。ボールを使わない言い訳を探してみたり、家に帰ろうとしてみたり。その度に友達がサッとかけることばが、あれよあれよとアルノを前に促します。
たとえば、アルノが地面にボールを置くきっかけになったのは「きみのボールだ。キックオフしていいよ」ということば。これを聞いて、アルノはボールをやっと体から話して地面に置くことができたのです。
もちろん友達は、アルノに助け舟を出しているのではなく、単にアルノのボールでサッカーをしたいだけ。ボール目当てとも言えるほどですが、そのカラッとした対等な関係は、子ども同士でないと築くのは難しいのではないでしょうか。友達っていいなあと思わずにはいられません。
サッカーって楽しい! スポーツの喜びが伝わる名場面
サッカーの試合が始まってからは、皆すっかり盛り上がり、夢中で大声をあげて走ったり踊ったりします。「ぴかぴかのサッカーボールは、バッシーンととんでおおきなカーブをえがき、きときのあいだをぬけてそらへとんでいきました。どんどんたかく、くもをぬけて、おひさまにむかって」
これは、アルノがゴールを決めた場面。ボールと共に視点が高くなり、周りがぐんと抜けたような印象になります。アルノや皆の気持ちよさが伝わってきますね。
そして試合終了後には、本物の試合のときのように、シャツを取替えっこしました。
見逃していませんか? 子どもの大きな成長
さて、そんな充実した時間を過ごしたアルノは、家に帰るのがすっかり遅くなってしまいました。ママは怖い声で「なんじだとおもってるの?」と言いますが、パパは黙っています。子どもと一緒にいる時間が長い上、女性の方が細かいことにも早く気付くため、パパよりママの方が子どもを叱る回数が多いとよく言いますが……
アルノは、大事なサッカーボールで新しい友達と良い試合をしたのです。「しあわせいっぱい」な気分でした。そんなアルノの顔が、キラキラしていないはずがありません。
もしかしたら、アルノのパパは、アルノの明るい顔とボロボロになったサッカーボールに気付いていたのではないでしょうか。
心配だったり、することがいっぱいだったりして、カリカリしがちなお母さん。でも、目先のことにとらわれて、子どもの大きな一歩やキラメキを見逃してしまったらもったいない! しっかりお小言を言った後であっても、その顔をよーく見てみてはいかがでしょうか。
『アルノとサッカーボール』は、日常の小さなことから成長する子どもの姿や、周りの大人の様子までを、鮮やかな色遣いで描いた気持ちの良い絵本です。ぜひ皆さんでお読みください!