「三冠レース」の幕開けとなる4月
競走馬はこの時期、3歳と4歳以上に分けられてレースで競います。そんな中、同世代だけで戦う3歳馬にとって重要となるのが、「三冠」と呼ばれる以下のG1レース。■皐月賞(芝2000m、中山競馬場)
■日本ダービー(芝2400m、東京競馬場)
■菊花賞(芝3000m、京都競馬場)
また3歳の牝馬(メス)は、牝馬限定の三冠レースが同様に用意されています。
■桜花賞(芝1600m、阪神競馬場)
■オークス(芝2400m、東京競馬場)
■秋華賞(芝2000m、京都競馬場)
違う距離、違う舞台で行われる3ラウンドの戦い。これらは、競馬に携わる人たちが目指す「甲子園」のような存在です。また、このうち秋華賞を除いた5レースは、「クラシック」とも呼ばれます。
そして、そのクラシックの火ぶたが切られるのが4月。上旬から中旬にかけてまず桜花賞が行われ、その一週間後に皐月賞という日程になっています。
ということで、この2レースの見どころを紹介していきましょう! まずはオトコ馬たちが競う皐月賞から。
ある意味、もっとも過酷なクラシック「皐月賞」
競馬界の花形である三冠レースの一つでありながら、私は昔、皐月賞が嫌いでした。なぜなら皐月賞の舞台はとても過酷で、実力以外のいろいろな要素が勝敗に絡むからです。たとえば日本ダービーを行う東京競馬場と比べると、中山競馬場の舞台はあまりに異なる構造です。東京の芝コースは、1周約2100m、最後の直線も525.9mと日本でも屈指の大きさ。一方の中山(内回り)は、1周約1700m、最後の直線は310mという小さなコース。
この違いが何を生むか、というと、単純にいえば「有利不利」です。1周が短い中山はコーナーがタイトで、外を回る馬は距離ロスが大きい。だからもちろん、みんなインコースをキープしたいけど、そうなると今度は内側に密集し、前に馬の壁が出来て力を発揮できずに終わる可能性もあります。だからこそ、各コーナーでのポジション取りは白熱。
競馬では横並びでゲートに入りスタートしますが、そのスタートポジション(枠順)は抽選で決められます。皐月賞ではこの枠順の抽選が非常に重要。一番外側の枠順になると、その馬はかなりロスの大きなレースをせざるを得ませんから。
さらに競走馬は、レース最初から先団につける馬もいれば、後方に待機し、最後の直線で追い込む馬もいます。一般的に皐月賞の舞台は、追い込む馬にとってかなりの難関。後半で追い上げるには外を回さなければならず、しかも最後の直線が短く、満足に加速できないためです。
しかも、3歳の4月はまだデビューから1年と経っていない時期。そんな未熟な若者たちが、過酷な舞台に挑まなければなりません。だからこそ、皐月賞が嫌いでした。
あっさりと不利をはねのけた、ディープインパクトの皐月賞
2005年の春、「三冠」の舞台で大いに注目されていたのがディープインパクト。三冠レースのすべてを制し、史上6頭目の三冠馬になれるか。そこまで期待されていた同馬にとっても、やはり最大の難所は皐月賞といわれていました。ほぼ最後方から一気に追い込むスタイルは、中山の舞台で不安視されたからです。しかもディープインパクトは、皐月賞のスタートでつまずき、大きく出遅れてしまいました。このとき思ったものです、「ディープインパクトでさえ、皐月賞で涙をのむのか」と。でもこの伝説的名馬は、そんな凡人の想像をはるかに超える能力を持っていました。
2005年の皐月賞はこちら(ディープインパクトはオレンジ帽の14番)
スタートのアクシデントなんかお構いなし。アウトコースを回る距離ロスも問題なし。悠々と、楽々と直線で先頭に立って、快勝してしまったのです。この時、武豊騎手から「走っているより飛んでいる感じ」という有名なコメントが出ました。
私は考え直しました。確かに公平なコースで競うのは一番の理想かもしれませんが、それだけでは趣がない。これはあくまで、見ている人間の無責任な意見ですが……。いろいろな条件があって、有利不利があって、それを乗り越えるところに驚きや感動が生まれるのではないかと。また、その有利不利が駆け引きを生むのではないかと。これこそが、競馬の醍醐味なのだと。そんな意味で、今では皐月賞が大好きになりました。
ちなみに皐月賞は、コース形態から一般的には先行する馬が有利といわれますただ、それをどの騎手も意識するために、序盤からみな前に行こうとし、オーバーペースになることもあります。すると、打って変わってゴール前では後方待機の馬が押し寄せるケースも多々あるのです。この辺りの難しさも、皐月賞ならではといえましょう。