今ひそかなブーム!大衆演劇
近年、幾人もの若手スターが人気を集めにわかに活気づいている大衆演劇。大衆演劇の若手スター『玄海花道(げんかいはなみち)』
特に関西は2010年代に入ってから新設された劇場も数多く、全国を見渡しても他にない活況を呈している。
大衆演劇とは?日本伝統の"会いに行けるアイドル"
ご覧になったことが無い方のために説明しておくが、大衆演劇は演劇、音楽に合わせた舞踊、歌謡ショーなどによって構成されるショー。演劇面では歌舞伎や狂言、新劇。音楽面では浪曲、歌謡曲(J-POP)。舞踊面では日本舞踊からタップ、モダンダンスという具合に新旧さまざまなものを取り入れながら『大衆演劇』としか言いようのないオリジナリティーを確立している。
また開場時のお迎え、終演後のお見送りでは親しく言葉を交わしたり写真を撮ったりできるし、幕間での物販タイムでは演者が自ら客席をまわるという距離の近さも大衆演劇ならではの魅力の一つ。
AKB48が発足するはるか以前から大衆演劇の演者は「会いに行けるアイドル」だったのだ。
玄海花道インタビュー
今回、インタビューに応じていただいたのは1960年代に昭和の大エンターテイナー・トニー谷さんの後援で立ち上がったという歴史ある劇団『筑紫桃太郎一座』の花形『玄海花道(げんかいはなみち)』さん。中将タカノリと玄海花道さん。インタビューは公演後の新開地劇場の舞台にて
座長の筑紫桃之助さん、弟座長の博多家桃太郎さんと共に”花の三兄弟”として大きな注目を浴びている若手スターだ。
左から花道さん、桃之助さん、桃太郎さん。全員まだ20代の3兄弟だ。
初舞台は0歳!
ガイド:花道さんはいつ頃から舞台に立たれていたんでしょうか?花道:0歳のころから舞台に上がっていたみたいですね。もちろん覚えてないですけど(笑)
ガイド:生まれてからずっと一座で全国をまわっていたんですね。大衆演劇ならではの生活環境ですが、今振り返ってどんな感想がありますか?
花道:生まれてずっとですからね。自分の中ではそれが普通になっているんですけど、学校のクラスでなかなかなじめないのは寂しかったですね。
ガイド:大衆演劇では学校がらみで苦労した方が多いですよね。
花道:ほとんど学校に行ってない人も珍しくないですよ。
ただ、うちはお母さんが保育園の先生をしてた人で教育にはこだわりがあったんです。
「義務教育だけは絶対に行け」って方針で、辛かろうがなんだろうが学校にはしっかり通わされましたね。
ガイド:立派なお母さんですね。
花道:思春期の頃は本当に嫌でしたけどね(笑)
クラスメートと話題が合わないんですよ。3歳くらいのときに『カクレンジャー』には夢中になったけど、それから後はほとんどテレビ観てないですから。
ガイド:やっぱり子供ながらお芝居のほうに興味あったんでしょうか?
花道:それもあったと思いますけど、一ヶ月ごとにいろんな地方に行くんで連続物のテレビ番組が観れないんですよ。民放をほとんど放送してなかったり、数週間遅れの地方も多いんです。
演歌と浪曲が好きだった子供時代
ガイド:音楽はいつから意識して聴きはじめましたか?一般的には小学校高学年とか中学校くらいでアイドルやアーティストに夢中になる人が多いと思うんですが。
花道:僕の場合、もっと小さい頃から音楽は大好きでしたね。ただ、それも流行の曲じゃなくて演歌や浪曲なんです。
三波春夫さんの『独眼竜政宗』とか。お父さんの影響ですね。
演歌・歌謡曲だけでなく浪曲の名手としても評価が高い三波春夫
ガイド:今プライベートで聴く音楽も演歌や浪曲が多いですか?
花道:そうですね。少し幅が広がって、映画やドラマのサントラとかヒット曲もチェックするようになりましたけど。どうしても仕事目線が入っちゃいますね。
ガイド:カラオケに行った時なんかどんな曲を歌うでしょう?
花道:人前で歌うのは嫌いなんですよ。オンチなんで(笑)
一度、他の劇団と合同公演で無理やり『江戸の黒豹』(杉良太郎)を歌わされたんですけど、あんなに恥ずかしいことは無かったです。
大衆演劇における"歌"
ガイド:いい声されてるんで、歌えば新しいファンも付きそうですけどね。花道:そうだったらいいんですが、地方によって役者が歌うことへの反応ってすごく違うんですよ。
ガイド:どんな違いがあるのでしょうか?
花道:たとえば大阪のお客さんは「芝居や舞踊だけじゃなくて歌謡ショーもやってほしい」っていう方が多いんです。
これが九州だと「芝居と舞踊を観に来たけど、役者の歌はいらない。歌なら歌手のコンサートに聴きに行く」といわれるんです。
ガイド:大阪人のがめつさが出ているのかもしれませんね(笑)
筑紫桃太郎一座では歌手のジョージ山本さんが歌謡ショーをつとめておられるので、うまく間がとれていると思います。
一座の専属歌手をつとめるジョージ山本さん
リミックス!ロック!K-POP!案外ナウな大衆演劇の音楽事情
ガイド:筑紫桃太郎一座には、既存の大衆演劇の枠を打ち破っていこうという心意気を感じます。たとえば音楽面では『潮来の伊太郎』(橋幸夫)や『時の流れに身をまかせ』(テレサ・テン)みたいなおなじみの古い曲でもバージョン違いやカバーをリミックスすることで斬新な演出をしていますね。
花道:はい、パソコンには常時4000曲のストックがあるんですが、それをさらに音楽ソフトで編集して使うことが多いです。
最近は倖田來未さんとか徳永英明さんがカバーアルバムをいっぱい出しておられるんで、いろいろ面白い組み合わせができるようになってきました。
ガイド:大衆演劇の舞踊で使われる音楽には独特の流行がありますが、これはどのように生まれていくのでしょうか?
花道:たとえば今、定番曲になってる『一本釣り』(島津亜矢)、『お梶』(島津亜矢)は、もともと劇団花車の姫京之助座長が流行らせたものが定着したんですね。
サビの「一本釣りだよ~お前の心~」というフレーズにあわせて演者が客席を指差す
「なんとなくみんなが使うようになった」と言うよりは、誰か一人が始めたことで火がついたケースが多い気がします。
ガイド:花道さんが流行らせた曲もあったりするのでしょうか?
花道:流行っているかどうかはわからないですけど、クレイジーケンバンドの曲で踊ったのは僕が初めてじゃないかなと思います。
ガイド:ややアダルト向けなバンドだけど、ロックの曲を使うのは斬新ですね。
他の劇団でもK-POPとかEXILEの曲で踊ってる役者さんがいたりしますよね。
花道:10代、20代くらいの役者も多いですからね。
同じように若いお客さんも増えてきてるから、できる限りいろんな音楽を取り入れたいです。
古いものも新しいものも混ざり合ったいいバランスをとるのが難しいんですけど。
新しいことにこだわりたい
ガイド:保守的で古めかしい印象をもたれがちな大衆演劇ですが、実際はかなり現代的な要素も取り入れてる。花道さんも音楽だけでなく衣装もゴシックっぽかったり陰陽師っぽかったり、かなりチャレンジャーの部類じゃないかと思っています。
ヨーロピアンないでたちの花道さんが登場すると若いファンからは「キャー!」という絶叫
花道:昔ながらのことをずっとやっていてお客さんが来てくれるのならそれでいいんですけど、実際にはそれでは駄目だと思うんですよ。
ガイド:筑紫桃太郎一座ではお芝居にしても新作が多いですよね。
花道:今"古典"と言われているお芝居も、元をたどれば誰かが作った新作だったわけじゃないですか。
僕は自分の将来のためにも新作を作ることにこだわりたいんです。
時代劇とか現代劇っていう縛りもあんまり関係ないです。
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神戸市の新開地劇場
昼夜続けての公演後にもかかわらず快くインタビューに応じていただいた。
花道さんは若干23歳だが、生まれた瞬間からプロの現場に身を置いているだけあって"ゆとり世代"なんてものとははるか遠いところにいる気骨ある好青年だ。
必ずや今後の大衆演劇界を担っていくスターの一人に成長してゆくことだろう。
今後も動向に注目してこのコーナーでとりあげていきたい。
PS 花道さん、お土産のとんこつラーメンと明太高菜美味しかったです。またしゃべりましょう。
※取材、インタビューにご協力いただいた居酒屋『赤だるま』さんに感謝いたします