島根はどこに消えた
滝口悠生さん
――デビュー当時のインタビューによれば、次は「島根を舞台にしたロードムービーのような話」ということでしたが、「わたしの小春日和」は全然違いますね。
滝口 実は同じ話なんですよ。あのとき書いていた小説を仕上げていくうちに「わたしの小春日和」になった。
――島根はどこに行ったんですか(笑)。
滝口 島根は全然なくなってますね(笑)。最初は高田馬場で島根のことを思い出すみたいな話だったのかな。主人公は奥さんと別れていて、職場にかわいい女の子がいるんですけど、その女の子が島根の実家に帰るというんですね。職場の経営が危ないから。で、主人公は女の子のことが気になりつつ、近所の仲の良い子供に奥さんに対する未練を語って聞かせる。子供と一緒に奥さんの写真を切り貼りしたアルバムをつくって、奥さんの顔のところに職場のかわいい子の写真をコラージュしていく。コラージュしたアルバムを最終的に出雲大社に奉納するという……。
――前のバージョンも読んでみたい。
滝口 結局、子供と離婚の話だけが残りました。書きなおしたほうにも前の構造がそのまま出ているから、モチーフのつながりが完全におかしくなっているんですけど。
――「わたしの小春日和」は収録作中でいちばん笑いました。主人公の語りがおかしいし、友達の奥さんが発明した「ツルッとほどけ~る」とか、地元のヤンキー伝説とか、小学校教師が卒業式の日に実行しようとする珍妙な計画とか、一つひとつのエピソードがおもしろい。このなかで現実にあったことは入っているんでしょうか。
滝口 ないと思います。ただ、卒業式の話は、自分が前々から思っていたことが入っています。毎年、国歌を歌うかどうかで学校がもめているじゃないですか。歌うか歌わないかだけじゃなく、なんで歌い方についての議論が出て来ないのかなと思っていて、別の表現方法を考えてみました。
書いているうちに想像もしていなかったものがポロッと出てきたり、話が意外な方向に展開するとおもしろいなと思います。最後は自分でも驚きました。そうなるんだ、みたいな。