テクノポップ/アーティストインタヴュー

MUDDY WORLD、そしてテクノな鉄雄(2ページ目)

MUDDY WORLDのギタリスト、俺はこんなもんじゃない(OWKMJ)のベーシストでもある添田雄介さんが、少年「鉄雄」となり、打ち込みで紡ぎ上げたソロ・デビュー作『Fe』をリリース。空想と現実が入り交じった少年が主役の小説的テクノポップ。今回は、鉄雄として登場頂きました。

四方 宏明

執筆者:四方 宏明

テクノポップガイド

小説は好きです

ガイド:
アルバムを聴かせてもらって、感じたのが、ジュブナイル小説的な世界観。空想とちょっとハードボイルド。小説はお好きなのでしょうか?

鉄雄:
tetsuo

鉄雄

小説は好きです。昔も今もよく読むのはミステリ・SF方面です。純文学は今はもうあまり読まないのですが、色川武大や安部公房など、戦争・戦後を経験した方、既に亡くなった方の作品が好きです。

基本的には空想を駆使して現実に異議申す風刺の要素がある小説が好きで、空想・現実片方に寄り切らない姿勢や、空想で現実に対抗する、又は現実に空想が紛れこむといった「空想と現実、2つの関係をどんな形にして面白くするか」のような考え方について、本から大きな影響を受けています。とりわけ、空想と現実が信じられないレベルで絡み合う半村良と、高度な謎解きだけではなく切ない優しさがにじみ出ている有栖川有栖が大好きな作家です。

 

打ち込みだけど、妙な手作り感

ガイド:
オープニングの「ふたご座」、途切れなく続く「ポストに鍵」…意図的に機械的に刻むようなサウンド。打ち込みだから表現してやろうという部分はあったのでしょうか?

鉄雄:
「バンドではしないことをやってみよう」というのが鉄雄の動機のひとつなので、打ち込み特有の面白さを大事にしようと意識しました。またそれとセットで、変拍子・インスト・ギター他生楽器は、バンドでやっていることなので封印しました。アルバムの中のギターっぽい音も、シンセの音を加工したものです。

それに加え、「打ち込みだけど、妙な手作り感」を大事にしたいと思いました。僕の持っているシンセは1995年製で、録音は違いますが曲作りにはパソコンを介していません。そういった古さ、機材の限界をこそ生かしていこうと考えました。現代の、ハイテクでなんでもできる打ち込み音楽に対してはひとまず距離をとって、自分が今手持ちでできることを、という気持ちでやることが、自分なりに必要なことだと思いました。

西遊記

ガイド:
「斉天大聖」は調べてみると、孫悟空が「西遊記」で名乗った称号とあります。孫悟空に対して特殊な思い入れなどがあったのでしょうか?

鉄雄:
テクノとアジアの雰囲気を組み合わせるのは伝統的なやり口ですが、それを自分なりの感じで踏襲できないかと思っていたところ、西遊記が頭に浮かびました。西遊記は序盤、孫悟空が斉天大聖と名乗り、天界を相手に暴れ回る話が結構長く続きます。世界の果てに行ったと思ったら釈迦の手のひらだったという有名なエピソードが出てくるところです。そして悟空は封じ込められ、その後三蔵法師のお供になって旅に出るのですが、彼のそんな勇敢で向こう見ずなところ、巨大なものに抗いたくなる気持ち、自分で称号を名乗るセンス、負けはしたが認めずにギラギラした感じを失わない所、そして三蔵法師のお供を一応前向きに務めるキュートな感じなどが「少年」そのもののカッコよさだと思い、歌詞のモチーフにしました。

 

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