ツッコミどころ満載の書籍『産後クライシス』
書籍の中でも、後半になると「産後クライシス」という言葉が、いつの間にか「産後クライシスによる夫婦関係の破綻」や「妻から夫への愛情が著しく下がる現象」の意味に都合良く置き換わっている箇所が散見され、話をややこしくしている。もしくは、産後クライシスの中でも、夫の無神経さによって悪化したケースだけを取り出して「産後クライシス」と認定しているようにも見える。恣意的にというよりは無意識的にそう流れていってしまったように読み取れる。そのほか書籍では……
- 「産後クライシス」は、ホルモンバランス、体調不良、子育てに対する不安、ライフスタイルの変化など、心身両面でのさまざまな原因によって引き起こされるもの。特に母乳の分泌を促進するプロラクチンというホルモンには、「敵対的感情」を煽る効果があることが知られている。それらの前提にはほとんど触れられていない。
- 子供が2歳の時点で、約5割の夫が妻に対して愛していると実感しているにもかかわらず、妻のほうは約3割しか夫を愛していると実感していないというデータから、「妻はストレスをため、夫を見限っているのに、それに気付かず妻を愛しているのんきな夫」という構図で産後クライシスを描いている。しかし、そもそもこの結果が逆だったらどうだろう。妻の約5割が夫のことを愛しているのに、夫の約3割しか妻のことを愛していなかったとしたら、きっと「夫は出産を機に、妻への興味をなくす。ひどい! だから産後クライシスになるのだ!」という話でおしまいだったのではないか。どちらの結果でも夫のせいになってしまうわけだ。
- そもそも「産後クライシスを防ぐために育児をしよう!」などといえばいうほど、育児を「目的」のための「手段」に貶めてしまうという負の側面があるから気を付けてほしい。「少子化を防ぐために子どもを生もう!」というのも同じだ。「学歴のために勉強しよう!」みたいな、本筋を外した話になってしまう。
たしかに産後のつらい時期をパートナーである夫が理解してくれないというのは大問題である。それが、産後クライシスという火に油を注ぐことは確かだ。それはそれで父親の自覚というものを猛烈に促したい。
しかし、産後クライシスを、「育児・家事をしない夫が悪い。だから妻たちは苦しんでいる」と描くのは少々短絡的すぎる。
次回は間違いだらけの「産後クライシス」論争第2弾として、「学術的な考察からひもとく『産後クライシス』」と題して、産後クライシスに関する既存の学術的な研究成果を紹介する。