(上演中~2月16日=東京国際フォーラムホールC)
【見どころ】
『フル・モンティ』撮影:taro
職を失い、人生崖っぷちの男たちがストリップショーで大金を稼ごうともくろみ、文字通り丸裸(full monty)になって奮闘する様を描いた、97年の英国映画のミュージカル化。ロバート・カーライルが哀愁滲ませて演じた「離婚され、息子の養育費が払えないため共同親権も失いそう」な主人公ほか、登場人物たちの大まかな設定は映画と同じですが、アメリカでの製作ということもあって、舞台は米国東部の田舎町、バッファローに変更。ダンスを覚えられないメンバーに投げかけられるアドバイス「あの動きを思い出せ」が、「サッカーの」から「バスケットボールの」になったりと、アメリカ文化に即して変わったディテール・チェックも楽しめます。2002年に来日公演がありましたが、日本人キャスト版の上演は今回が初めて。日本映画界を代表する俳優の一人、山田孝之さんが初舞台にして初ミュージカルとして主演するのが話題です。
【観劇ミニ・レポート】
『フル・モンティ』撮影:taro
何だろうこの熱気は?というほど、劇場入口には開場前から30代男女を中心とした人々の浮足立った空気が充満。尋常でない期待漲るなか、舞台は巡業でやってきた男性ストリップショーに女性たちが狂喜する様子と、それとは対照的に主人公ジェリーたちが不況で鉄鋼会社をクビになり、落ち込む場面からスターします。どん底のジェリーたちはストリップショーが金になると聞いて「俺たちもやるか!」と一念発起し、さっそくメンバー募集のオーディションを開催。どうみてもよぼよぼのおじいちゃん(ブラザートムさん)が、伴奏が始まったとたんノリノリのダンスで驚かせるのは映画版同様ですが、破壊的(?)なまでに場をさらったのが、次に登場したムロツヨシさん演じるイーサン。山田孝之さんと共演したドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズでの役を思わせる髪型で舞台いっぱいに駆け回るナンセンス・ギャグを展開し、ジェリーはもちろん、客席までも茫然とさせます。が、どこまでアドリブか判然としないギャグを連発し、「この人絶対不合格でしょ」と思わせた後、パンツを下げてイチモツの巨大さゆえ一発合格という作品の主筋に、すっと回帰。その後も、男たちからはそこここで「ここはアメリカじゃなくて日本?」と狐につままれるようなアドリブが飛び出したりもするのですが、彼らが身近な人との絆を再確認する過程は正攻法で感動的に演じられ、「どんな逆境でもなんとかなる!」と勇気づけられる、クライマックスのストリップショー・シーンへとなだれ込みます。役者たちを信頼し、「面白さ」を十二分に引き出しつつも要所要所は締めるというのが、福田雄一さんの演出姿勢なのでしょう。“ミュージカル初出演”の山田さんは、映像での演技力をここでも発揮し、頼もしさと自信のなさが交錯するジェリーを存在感たっぷりに表現。太く男らしい歌声、ストリップシーンでのセクシーなダンスも魅力的で、他のミュージカルでの姿も観てみたくなります。鈴木綜馬さん、保坂知寿さん、大和田美帆さんら、日ごろミュージカルで活躍する面々も安定感ある歌とダンス、そして気風の良さできらりと好演。ストリップシーンは黄色い歓声交じりで、場内大盛り上がりです。最後に男たちは本当にfull monty(すっぽんぽん)になるのか……は、劇場でお確かめを!
(2014年2月8日~3月2日=Bunkamuraシアターコクーン、3月7~9日=まつもと市民芸術館 主ホール、3月14~16日=シアターBRAVA!)
『もっと泣いてよフラッパー』
【見どころ】
実に22年ぶりの上演!77年に初演され、92年までたびたび再演された串田和美さん作の音楽劇『もっと泣いてよフラッパー』が、久々に登場します。「20年代の空想のシカゴ」を舞台に、踊り子たちやギャング、ボクサーらの恋が様々に展開する群像劇。松たか子さん、松尾スズキさん、秋山奈津子さん、りょうさん、大東駿介さんほか異色の顔合わせが実現するほか、串田さん、大森博さん、真名古敬二さんら本作には欠かせないメンバーも出演。役者が歌い踊るだけでなく、楽器を演奏するのも本作の特色だけに、新聞記者役で出演の石丸幹二さんは音大で学んだ「あの楽器」を演奏するかも……?楽しみの尽きない舞台です。
『もっと泣いてよフラッパー』撮影:細野晋司
【観劇ミニ・レポート】アルファベットの電飾サイン「クラブ・リベルテ」が見下ろす舞台。幕の間からひょいと現れた水先案内人(串田和美さん)の口上に続き、役者たちも参加するビッグバンドの華やかでリラックス感に満ちた音色に彩られた舞台は、「想像上の20年代のシカゴ」での、男女の恋を軽やかに描いていきます。物語はとりとめもなく、子供が次々に中身を取り出すおもちゃ箱のように展開していきますが、次第に3人の踊り子の恋模様に集約。掴んだはずの幸せが次々と指の間からすり抜けていく様を、儚くもさらりと描く、大人の童話の趣です。石丸幹二さんはサックス演奏も、正義感がいささか空回りする新聞記者役も楽しげに演じ、ヒロイン役の松たか子さんも澄みきった声を歌に、台詞に自在に操っていて、安定感抜群。その恋人役の大東駿介さんも、等身大の二枚目を面白く膨らませています。恋する皇太子役は片岡亀蔵さん。歌舞伎では『狐狸狐狸ばなし』の牛娘など弾けたお役がお手の物ですが、今回は歌舞伎役者ならではの「品の良さ」が生かされ、落ちぶれた貴公子を哀愁たっぷりに演じています。ギャングの親分役松尾スズキさんの、恋文を読む一人芝居とそれに続くシーンは抱腹絶倒もの。ラストでは心地よい夢から醒める瞬間のように「いつまでも浸っていたいのに」という心地さえする、極上の3時間20分(筆者が観た日の上演時間)です。
(2014年2月9日~3月15日=自由劇場)
『壁抜け男』撮影:荒井健
【見どころ】
マルセル・エイメの短編小説を、映画『シェルブールの雨傘』で知られる作曲家ミッシェル・ルグランがミュージカル化。ごく平凡な公務員の男がある日突然、「壁を抜ける」という特技(?)を身につけ、「怪盗ガルガル」として町の英雄に。不幸な人妻、イザベルの心も掴むのですが……。昼間は野菜も売る年老いた娼婦、酒浸りの医師、売れない画家ら個性豊かな人々揃いの、パリ・モンマルトルの生き生きとした描写は、フランス現代演劇で出発した劇団四季ならでは。“平凡な人生こそが輝かしい”と高らかに歌う佳作です。
【観劇ミニ・レポート】
『壁抜け男』撮影:荒井健
小粋な大人のおとぎ話に見えて、舞台は「情勢に応じて要領よく生きる人々」を風刺したり、ナチスを弾劾し、権力者への不服従を織り込むなど、気骨たっぷり。なるほど、本作の次の『マルグリット』ではナチスへの嫌悪を本格的に描いた作曲家ルグランらしい作品です。メロディも音があちこちに飛び、歌唱は決してたやすくなさそうですが、この日の主人公デュティユル役・飯田洋輔さんほか四季のキャストは一つ一つの音を丁寧に、正確に発声。11人のキャスト全員が集まり、主題歌を歌いながら額縁舞台を模した幕の中に吸い込まれていくフィナーレでは、ヴィジュアルがぎゅっと凝縮されてゆくのに反比例するように、アカペラのハーモニーが少しずつ拡大。最後には劇場空間いっぱいに「人生は最高!」というフレーズが響き渡り、どんな大作ミュージカルのクライマックスにも劣らない、生身の人間の「声」の力を感じさせる名シーンとなっています。また、デュティユルとの恋を通して自分の「性」を開放してゆくヒロイン、イザベルは物語を最終的に「愛」という甘やかな布で包み込む上で重要な役ですが、今回演じる坂本里咲さんは恋を知ってからの一挙手一投足に喜びを漲らせ、ラストでは自分の恋を永遠化するため、ともすると切なく見えがちなある行動に、猪突猛進。場内に「迷いのない幸福感」がたちこめることに、大いに貢献しています。