飛蚊症

実際にはない黒いゴミのようなものが、チラチラと視界に見えてしまう飛蚊症。原因は硝子体の濁りです。効果的な治療法の有無について解説します

「飛蚊症を何とか治せないか」。多くの飛蚊症患者さんがこのような悩みをお持ちです。私自身にも飛蚊症がありますが、確かにうっとうしいものです。中には飛蚊症によるストレスで深刻なノイローゼになり、自殺を考えるまでになってしまったケースもあり、ご家族に連れられて患者さんが来院されることもあります。これは本当にあることなのです。私も過去にそういった患者さんを3人は診察しましたから……。おそらく飛蚊症を苦にした末に命を絶ってしまった方も、世の中的にはいらっしゃるのだと思います。

飛蚊症の治療方法として多くの人が考えるのは、目薬で治らないか、サプリメントや内服薬で治らないか、レーザー治療で治らないか、手術で治らないか、というところでしょう。それぞれについて詳しく解説します。

目薬・点眼薬による飛蚊症治療・改善は可能か

一言でいうと、今のところ、目薬(点眼薬)で飛蚊症は治りません。理由は、そのような目薬が現時点ではないからです。

では、そのような目薬を早く開発すればよいのに、と思われるかもしれませんね……。それが非常に難しい理由を解説させてください。

そもそも飛蚊症の原因は、硝子体の濁りです。硝子体の濁りを解消するためには、その濁りを化学的に溶かすか、物理的に除去するしかない、ということはおわかりいただけるかと思います。点眼薬で除去するということは、当然化学的に溶かすという作戦を取ることになります。

硝子体は特別な組織ではなく、体内に普通に存在するコラーゲンとヒアルロン酸が主体です。特に硝子体の濁りは、コラーゲンが主体と思われます。

コラーゲンは体中に存在するので、「硝子体の濁りを溶かす目薬」があるとしたら、それは体の他の部分も溶かしてしまう目薬ということになります。

さらに、もともと点眼薬は硝子体内まではほとんど移行しません。ということは、硝子体内で効果を発揮してくれるような濃度にするためには、ものすごく濃度の高い目薬を作ってさす必要があります。

ここを読んでくださっているような医学に明るいみなさんならもうお分かりですよね。そんな目薬をさしたら、影響は硝子体だけは済みません。目の周りはぼろぼろになってしまうでしょうし、目の内部の大切な網膜なども決して無事では済まないでしょう。ですので、目薬で飛蚊症を治療することは永久に無理なことだと思います。

飛蚊症に効く目薬を作り、眼内に直接注射すればよいのでは?

上記のように、目薬では周りの組織まで傷つけてしまうなら、飛蚊症の原因である硝子体の混濁、すなわちコラーゲンを溶かす目薬を作って、それを眼内に直接注射で入れたらどうだろう? と、眼科医としては考えてしまうところです。

「目に直接注射?」と思わるかもしれませんが、眼科領域では治療法が日々ものすごく進歩しています。今は本当に網膜や硝子体にお薬を効かしたい場合、角膜の脇の白目から注射で直接硝子体内に注入しています。こうご説明すると、死ぬほど怖い治療だと思われそうですが、驚くほど痛みも少なく、受けた方はみなさん次回から平気で受けられています。

これと同じ方法で、コラーゲンを溶かす薬を硝子体に直接注入することは、技術的には可能でしょう。ただし、網膜にもコラーゲンが存在しますから、網膜がぼろぼろになってもいいならば試してみてください、という話になってしまいます。少なくとも私自身は嫌です……。ですが、これが実は一番期待できる治療法かもしれません。網膜がぼろぼろにならず、かつ硝子体の濁りが溶ける濃度で注入できれば……。しかし何度も言いますが、現時点でこの治療法を試すことは、自分の目には勘弁してもらいたいです。

では「点眼で飛蚊症が改善した」という体験談は嘘?

しかし、たまに「目薬で飛蚊症がよくなった」という話を聞くことがあります。これについてですが、硝子体の濁りは自然に溶けてくれることがありますし、自然に移動して目立たないところに行ってくれることもあります。目薬が医学的に考えても、原理として飛蚊症治療に有効でないということは上記で解説したとおりですので、そういった体験を持っている方は、目薬の使用に関係なく、たまたまよくなったのだと思われます。ま、目薬で治ったというせっかくの幸福感を全否定してしまうのも野暮な話なんですが……。

次のページでは、サプリメントや内服薬で飛蚊症が治るのかを解説します。