注目のソプラノ、市原 愛さんインタビュー
ガイド大塚(以下、大):この度はトリノ王立歌劇場来日公演に出演決定おめでとうございます!市原愛さん(以下、市):ありがとうございます。指揮者で音楽監督のノセダさんを前にオーディションで実際に歌い、ノセダさんが評価してくださり、出演させていただけることになりました。
大:今回はヴェルディ作曲『仮面舞踏会』のオスカル役ですね?
市:はい。私の声に合っている役なので上演が楽しみです。
大:オスカル役をこれまでに歌ったことはありますか?
市:私はずっとドイツで歌っていたのですが、ドイツの歌劇場のオーディションでも、オスカルのアリアは非常に好まれ、指定されることが多いのです。ですので、アリアそのものは勉強していましたし何回か歌っていますが、オペラ1本を通して歌うのは今回が初めてになります。
大:オスカルってズボン役(女性が歌う男性役)ですよね。
市:はい、ズボン役自体、初めてです。
大:ズボンを穿く練習とかなさっているのでしょうか?(笑)
市:そういうわけではないですが(笑)、ズボン役というのは単なる男性ではなく若い男の子の役なので、身のこなしや姿勢を意識しています。女性の役をやる時と重心がちょっと違うところにあるようだ、と、そういった研究をしています。
大:なるほど! オスカルはどういった役だと思いますか?
市:ストーリーそのものは男女の三角関係のドロドロとした内容ですが(笑)、オスカルはその恋愛とは関係がないのですよね。非常にドラマティックに最後の悲劇に向かう重いストーリーの中、私の演じるオスカルは唯一の明るいキャラクターで、彼の登場するシーンでオペラの色をがらっと変える存在です。彼の存在に気持ちも少し休まりますし、音楽もオスカルの部分だけ軽快ですから、見ていて楽しんでいただけると思います。
大:ですよね。明るく華のあるところからして、市原さんにぴったりの役だと思います。
市:ありがとうございます。自分でも、キャラクターも声の質も容姿も含めて、この役は合っているかも、と思っています。特に容姿は、男の子の役なわけですが、欧米の方は、背が高い方が多いですよね。私は日本人の中でも標準的な身長で、彼らの中に入るととても小柄で小さく見えるので、それは逆にオスカルという役を演じる場合、メリットになるかなと思っています。
大:えぇ。当たり役かなと思いました。
市:そうなるといいのですけれど(笑)。
大:演出はどのような感じなのでしょうか?
市:2012年の6月に、今回の上演と同じ演出の現地での公演を勉強がてら見に行ってきたのですが、素晴らしいものでした。1・2幕は非常にシンプルな舞台なのですが、3幕の仮面舞踏会のシーンは赤を基調とした舞台で華やかなんです。急に色彩が変わるので、客席からは思わず「わっ」と声が上がったほどです。非常に華やかな舞台で見応えがありますよ。
大:それは楽しみですね! トリノ王立歌劇場という団体自体はいかがでした?
市:非常に結束力のある団体で、稽古もスムーズに行っていましたね。彼らがここまでレベルを上げていることに最も貢献しているのは、指揮者のノセダさんだと思います。彼の幅広い人脈に加え、人柄を慕って本当に世界中からスター歌手がトリノに集まってくるのです。ですから非常に質の高い上演をしていますし、オーケストラは、歌手を伴奏するというだけではなくて、一人ひとりがとてもオペラを知っているのですよね。ですので表現が深い。それはとても強みだなと思います。
大:ノセダさんって写真を見ると怖そうなのですが、いかがです?
市:そんなことはないですよ(笑)。自分の追及するものに対しては厳しいだろうなと思いますが、とっても気さくで陽気な方で、私のような若手の歌手であっても仲間として扱ってくださるんです。
大:なるほど。ノセダさんの人柄は良い音楽ととても関係がありそうですね。
市:そうですね。今回の公演も、チケットは安いものではないですが、他のイタリアの歌劇場に行っても、ここまでのキャストが揃う公演は見られない、というほどの本当に粒揃いの歌手が一気に来日するので、とっても貴重な公演だと思います。出演する側から言うのもおかしいのですが、このチャンスを見逃さないでほしいですね。しかも『仮面舞踏会』と『トスカ』というのはオペラを初めて見る方にとっても、とても分かりやすいメロドラマ的な悲劇で、きっと満足していただけると思うので、ぜひ来ていただきたいです。
大:はい、とても楽しみにしています!
ということで市原さん自身も出演者でありながら一オペラファンとして楽しみだという今回の公演、ぜひ世界が注目する上演をお見逃しなく!
■市原 愛プロフィール
神奈川県生まれ。 東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。ミュンヘン国立音楽大学大学院を修了。 東京藝術大学在学中より、ソロリサイタルやコンサート出演、またシドニーオリンピック日本選手団解団式での「君が代」独唱、国立劇場における内閣府主催天皇陛下御在位10年記念式典における演奏、敬宮愛子様ご誕生を記念ロイヤル・ガラ・コンサートの記念演奏に起用されるなど才能と素質は高く評価されてきた。
ドイツ留学後は、ミュンヘンのプリンツレゲンテン劇場、バイロイトの辺境伯歌劇場、バーデン州立歌劇場、アウグスブルクのゲッギンゲン・クアハウス劇場、ハンブルガー・カメラータなどに出演。現地新聞にて“ソプラノ界の新星”と絶賛された。08/09シーズンは、アウグスブルク歌劇場の専属ソロ歌手として契約。現在は、ヨーロッパと日本を中心に、リサイタルやオペラ、コンサートのほか、宗教曲のソリストとして活躍している。