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医師の目から見る「カネボウ美白化粧品の白斑問題」

カネボウ化粧品は同社の美白化粧品により肌がまだらに白くなる白斑が生じた被害者が平成25年10月13日時点で15192人に達したと発表しました。最近では海外でも被害者が確認されたり、慰謝料を求める訴訟が起こされるなど、今後もさらに拡大していく問題と思われます。企業責任、コンプライアンスなどが騒がれるこの問題を、症例画像を交えながら専門医の視点から考察します。

執筆者:野田 弘二郎

カネボウ白斑被害の発覚を助けた2人の患者と有能な医師

カネボウ化粧品による白斑被害の症例画像

当院で診察したロドデノールにより首に生じた白斑。一部に赤みと痒みを伴う

カネボウ化粧品の美白化粧品による白斑被害。そもそもの発端は平成23年秋に2人の女性が痒みや赤みなどのかぶれの症状で山口県のとある皮膚科医の元に診察に訪れたことから始まります。

診察した医師は同時期に訪れた2人の患者の症状が類似していること、それも単なる化粧品かぶれではなく、皮膚が部分的に白くなる「白斑」を伴っているという非常に特殊な症状であることに気がつきました。詳細な病歴聴取により2人の患者が共通の化粧品『リサージ』を使っていることが分かり、さらにパッチテスト(かぶれの原因と推定される成分を肌に塗り、48時間後に赤みなどの反応をみる)を行い、その特殊な症状の原因がロドデノールであることを突き止めました。

この時使用されたパッチテストの材料は、医師がカネボウ化粧品に事情を説明して入手したものです。また医師は診断の確定した平成23年10月と2月に、同社に対しロドデノールが原因と推定されるかぶれと白斑症状の発生を知らせ、他に類似の患者情報が無いか問い合わせをしています。また翌年3月にはカネボウ化粧品の了解の元に学会での報告も行って います。この学会は日本皮膚科学会の地方会と呼ばれる比較的小規模な学会で、1~2ヶ月おきに各地域で開催されるので速報性に優れるという特徴があります。

こうした一連の対応は医師として模範的であり、手続きも完璧で、非常に有能な人物であることがわかります。忙しい日常診療の間にこうした対応を取ることは、実は非常に困難なことだからです。また功名心や大メーカーの無為無策への義憤などといったものでなく、純粋に健康被害の拡大を防ぐために懸命になっている姿がうかがい知れ、こうした姿勢は同じ医師として敬意の念を抱かずにはいられません。

人気美白化粧品の白斑被害でカネボウ化粧品の対応は

カネボウ化粧品による白斑被害の症例画像

指の間に生じたカネボウ化粧品による白斑

一方でカネボウ化粧品の担当者はこの時点でこれらの指摘を単なる化粧品かぶれ、アレルギー性皮膚炎と判断してしまい、調査など具体的な対策が取られることはありませんでした。どのような化粧品でもかぶれや赤みといった症状は多かれ少なかれ起こるものなので、メーカー側がそういった軽微な症状に対して一件一件対応しないのは理解出来なくもありません。

しかしここでは白斑という比較的珍しい症状があり、医療現場からその特殊性について指摘が行われています。それにもかかわらず問題視しなかったのは非常に残念なことです。メーカーとして何らかの裏事情があったのではと勘ぐられても仕方ないと思います。しかしながら平成25年5月になって別の医師から同様の報告を受けたことで問題の重大さに目を向けざるを得ず、対応を迫られることとなります。そしてついに平成25年7月4日になってようやくロドデノールを含有する化粧品の自主回収を発表するにいたったのです。

 

確立されていない治療法……
白斑被害に対する皮膚科学会と厚生労働省の対応

このニュースは
  • ブームとなっている美白化粧品が原因となっていること
  • 大手メーカー製品で出荷個数が累計400万個以上と販売数が多いこと
  • 白斑という馴染みはないが分かりやすい症状が主体であること
などから社会的インパクトが大きく、類似の症状を訴える被害者が医療機関に殺到することになりました。

我々医師からすれば単なる化粧品メーカーの謳い文句に過ぎないと考えていた「美白効果」、すなわちメラニン抑制効果が、望まない形、病的な形とは言え実際に確認されたことが大きな驚きでもありました。

また前例のない特殊な症状を示し、予後も不明、確立された治療法もないといった患者の殺到した医療現場からはたちまち悲鳴が上がりました。

これに対応して日本皮膚科学会は診断と治療方法を早急に確立すべく「ロドデノール含有化粧品の安全性に関する特別委員会」を7月17日に発足させました。更に10月11日には化粧品、医薬部外品認可の監督省庁である厚生労働省自身も原因分析や再発防止にあたる研究班の設置して対応することとしました。

後半では、ロドデノールとはいったい何なのか。美白化粧品のメカニズムと併せて考察します。
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