年10%を稼ぎ続けることはほとんど不可能
先ほど、1億円のゴールがウソではない条件として、「毎月5万円の積み立て」を「若いうちから行い」、「高利回りの金融商品で資産を増やすこと」の3つを指摘しました。疑うべきポイントは「高利回りがずっと約束されたら」というところです。長期で運用を行う場合、短期的に高い運用成績が得られる方法があっても連続しないことはほぼ常識です。むしろ高すぎる利回りをねらうとリスクが大きくなるため、大きく負ける可能性も高まります。世界的にも有名な機関投資家であるカルパース(カリフォルニア州職員退職金年金基金)ですら年7.5%の運用目標です。この目標はアメリカのインフレ等を考慮しても高すぎたため、リーマンショックの起きた年には-27.8%と大きく運用で穴を開けています。
普通の個人が購入できる投資商品で、運用の手数料も引いたあとで、年6%稼ぎ続けるのはほとんど至難です。また、日本のようにインフレがない環境において年6%という目標はカルパース以上の難易度があります。
同社のHP等では「世界には優秀なファンドがたくさんあるので、年10%の成績は可能でそうした商品を紹介できる」としていますが、「短期的に実現」と「40年連続で実現」はまったく違う話と考えるべきだったわけです。ここにセールストークを見極めるべきポイントがありました。
さらに、証券取引等監視委員会の検査結果によれば、広告に記載していた「過去5年間の年平均利回15.34%」という商品を顧客に助言していなかったというのですから、広告にも偽りがあったということになります(同社の関係会社に報酬が還元される特定の金融商品を助言していたとみられる)。
※証券取引等監視委員会の検査結果の説明はこちら
1億円はそもそもいらない、これはセールストークだと考える
そもそもマネーハック的には「1億円、本当にいるの」という視点も欲しいところです。同社の広告で私がもっとも気になったのは「若い人たちは国の年金はもらえない」とあっさり書いて、根拠は論じずに「だから1億円」とセールストークを組み立てていることです。国の年金にまったく依存しないと、確かに1億円が必要です。仮に老後の期間を25年、毎月35万円は欲しいとすれば、老後のお金は1億500万円になります。しかし国の年金がまったくもらえないと仮定するのは非現実的です。「毎月5万円くらい積み立ててくれると、ビジネスがいい感じになる」が先にあって、我々にストーリーを提示してきたのではないか?と考える発想がマネーハックとしては欲しいところです。
実際問題としては「日常生活費はなんとか国がくれる(ただし終身で何十年ももらえるのは長生きした場合価値が高い)」「ゆとりや趣味、医療や介護の備えを自力で行う」と仕分けすべきで、そうするとせいぜい3000万~5000万円ですむはずです。
また、「毎月5万円」というのは、若い世代にとっては大金であり、全額を投資すべきではありません。しかし、そういうアドバイスをすれば業者サイドは売り上げが半分になってしまいます。果たして業者サイドがそんな良心的助言をあなたにくれるでしょうか? あなたが「2.5万円は積立定期預金で、2.5万円は外国の投資信託にします」などと自分で決めなければいけないのです。
こうした商品は「本当」の中に「営業」を混ぜるところに、そのややこしさがあります。すべてはウソというわけでもなく、すべてが本当というわけでもないわけです。自分の頭で考え、明らかな誤りは見破る「眼力」が必要といえるでしょう。
マネーハックの基本原則、「まずは疑ってみる」がここでも役立つといえそうです。
むしろ問題として大きい一部顧客への利益提供
今回のコラムの趣旨には含まれませんが少しだけ追記を。証券取引等監視委員会の指摘事項のうち、最後のひとつにある、特定の顧客に利益提供した件も大問題です。特定の顧客が運用成績が不十分であると要求したところ、2年分の投資助言料であるはずの約940万円を免除しているというものです。こちらについては、あまり報道がなされておらず、同社のHP等で明確なコメントがないのですが、大口の顧客が不満を述べたときだけ利益提供が行われるのでは困ります。こちらについてもしっかり回答しなければ信頼の回復は難しいのではないかと思います。