電気自動車などのエコカーに注目が集まる中で、従来通りの体制を貫くメーカーや、新しい体制で「産業構造の転換」に向けて実際に動き出しているメーカーなど様々です。
現在までに販売されている主な次世代自動車
まずはこちらをご覧ください。2013年6月の時点で発表されている主な次世代自動車の販売について表に示します。水色の字がハイブリッド車、緑の字がプラグインハイブリッド車、そして赤の字が電気自動車の販売動向を示しています。2012年にきて各メーカーから電気自動車の発表が相次いでいますが、こういった状況は数年前には考えられませんでした。なぜなら、過去に複数のメーカーは「航続距離が200km以下の電気自動車はクルマではない」と主張してきたからです。
しかし、数年前に三菱自動車の益子社長が「100km以下の電気自動車の販売を検討する」と発言して以来、積極的な姿勢が目立つようになりました。このように、自動車業界の常識は短期間の間で大きく変わりつつあります。
大手自動車メーカー4社の戦略
今後、電気自動車を巡ってメーカー間の競争が激化していくと見られますが、各社が意図している戦略とは一体どのようなものでしょうか。以下では、日本の大手自動車メーカーである、「トヨタ自動車」、「本田技研工業」、「日産自動車」、「三菱自動車」の4社の戦略を元に、今後の各メーカーのエコカー戦略についてお話ししていきたいと思います。■トヨタ自動車
トヨタ自動車は、ハイブリット車に注力をしている一方で、電気自動車事業に参入していくために厳しい課題があります。
電気自動車はガソリン車に比べて部品点数が約1/5と圧倒的に少なく、その部品も異なるものを使用します。そうなると、ガソリン車専用の部品を製造するメーカーでなく、電気自動車用の新たなサプライヤーを見つける必要が出てきます。そのような産業構造の変化により、トヨタが創業以来築き上げてきたサプライヤーネットワークの再構築をもたらす可能性があるのです。
これまで関係性を保っていたティア1、ティア2、ティア3と呼ばれる優秀なサプライヤーをまた新しく構築することは、トヨタのように親密な関係を数多くの関連会社・子会社と持つ大手にとって大きなリスクを伴うのではないでしょうか。
(図)トヨタ プリウスPHV
トヨタが「プリウスプラグイン・ハイブリッド」のリース販売を開始すると発表し、それから2012年1月の販売から2013年4月時点では、世界販売台数3万3千台程度となっています。
また、JC08モードによる一充電走行距離は26.4km、エンジンとの併用による燃費は61km/LとトヨタのHVで最も燃費の良い現行アクアの35.4km/Lに比べ大幅に改善しました。しかし実際には高速道路などでは20km/L以下のケースも多いようです。確かにハイブリッド車であれば、電気自動車の課題である航続距離不足と高価格を克服できるでしょう。
現在では冒頭にもお伝えしたように、今まで築き上げてきたサプライヤーネットワークへの影響を考えると、トヨタが電気自動車に事業を本格的にスタートするのには少し時間必要です。
また、実際にトヨタ自動車は2015年までに新型ハイブリッドを新モデル21種類も投入することを計画するなど、レクサスやカムリに次ぐ世界戦略車としての位置づけは何ら変わらず、少なくとも2015年まではハイブリット車に注力する戦略で進んでいくでしょう。
また、トヨタ自動車は2015年以降には燃料電池車に注力していくと考えれられます。なぜなら、ガソリン車でエンジンに相当する燃料電池スタックと、燃料タンクに当たる水素タンクが、燃料電池車の普及のカギを握り、現在まで蓄積してきたHVの生産・開発ノウハウの多くを燃料電池車に応用できるからです。
(図)トヨタFCV-R
このようにHVに続き、FCVが世界で普及すれば、トヨタが次世代自動車産業において、大きくリードすると同時に、「究極のエコカー」と呼ばれるFCVで世界の主導権をも握っていこうとするトヨタの考えが見て取れるでしょう。
他にもトヨタは、燃料電池車の普及に向けて、海外企業との提携も推し進めています。日本経済新聞によると2013年1月にはドイツのBMWと、燃料電池車と高容量リチウム電池の共同開発を正式に合意しました。この提携を通じて、スピード感をもった開発と、価格をより安価なものにすることができるようになります。
また両社が共同で燃料電池車のための設備や規格・基準の査定も行っていく計画です。米フォードモーターにも提携を広げるなど、これら多くの会社を巻き込み、欧州に自前の車両を一早く販売し、次世代エコカーの市場獲得に向けて動きだしています。
■本田技研工業
本田技研工業(以下、ホンダ)はトヨタと同じく、電気自動車事業参入に消極的な姿勢を貫いてきました。「500km走れない車はホンダの車ではない」という言葉に表されるように、電気自動車の性能不足に不満を持っていたからです。
そこで、電気自動車の弱点である航続距離不足を克服できるハイブリッドカー路線を歩んできました。ホンダは4年前にハイブリッド車でありながら189万円という低価格を実現した「インサイト」を発売しました。
インサイトを開発する際にホンダが定めた目標は「世界中にハイブリッドカーを普及させること」でした。それから低価格化を実現するために、量産効果を最大限に生かせるよう生産方式を大きく見直し、セル生産方式からコンベヤ方式に変え、さらに機械化を導入し効率化を図りました。年々その販売台数は減少しているものの、2009年2月の販売開始から、2013年5月まで世界累計販売台数合計で15万5千台以上の売り上げを記録しています。
(図)ホンダ FCXクラリティー
当初の予定では、3年間で200台程度を生産し、日米でリース販売することになっておりました。
これは、2004年度から政府が取り組んでいる「燃料電池車普及5万台」の目標に則ったものだと考えられますが、事態は思うように進みませんでした。価格やインフラ面などの課題が山積しており、十分なブレイクスルーが起きなかったのです。
しかしながら、トヨタと同様にホンダは燃料電池車普及に向けた法改正やインフラ整備に貢献し、2015年を目標に、燃料電池車の価格を技術進化により500万円以下にし、燃料電池車の量産を計画しています。
また日本経済新聞によると、燃料電池車普及のためにコスト削減やインフラ整備のほかに、各社が連携して戦略を汲むことが重要だとしています。
実際に2013年7月ホンダと米ゼネラル・モーターズ(GM)は、環境技術で提携すると発表しました。2020年を目途に共同開発した最新の基幹システムを搭載した燃料電池車を販売します。トヨタ、日産などもまた海外勢との連携を図っています。これによって各社の車両開発や量産効果が向上し、価格を抑えつつ車両販売することが可能となるのです。
燃料電池車に注力しているホンダですが、一方で電気自動車に全く関心がないわけではありません。トヨタ自動車も似た戦略をとっていますが、ホンダは電気自動車を近距離移動用のコミューター、超小型モビリティーとして販売していく方向です。
つまり走行距離が短く、価格に関しても安価な超小型モビリティーと走行距離が長くその分価格も高くなる燃料電池車の2つの戦略をとることで、次世代自動車の市場獲得を目指しているのです。
(図)次世代自動車の棲み分け 経済産業省 水素エネルギー社会に向けた政府の取組みを基に中島作成