競馬場全体が感動に包まれた
2013年の日本ダービー馬「キズナ」
「ここ数年でもっとも涙を流したレースは?」と聞かれれば、私は迷わず「キズナが勝った日本ダービー」と答えます。レース後、競馬中継のキャスターを務めるフジテレビの福原直英アナウンサーが感極まってしまい、他の出演者に突っ込まれていましたが、それも無理はありません。今年5月の日本ダービーは、それほど感動的なレースだったのです。2010年3月5日に生まれた、1頭のサラブレッド。生産牧場であるノースヒルズは、ディープインパクトを父に持つこの仔馬を「最高傑作」と評しました。そして、温め続けていた「キズナ」という馬名を与えます。
2012年秋、キズナは評判通りの走りでデビューから2連勝。しかし、コンビを組んでいた佐藤哲三騎手が別のレースで落馬負傷。そこで武豊騎手との新コンビが結成されます。近年、かつての活躍が嘘のような大スランプに陥っていた武豊騎手。素質馬キズナとのコンビにかける意気込みは相当なものだったでしょう。
武豊騎手と新たなスタートを切ったキズナですが、なんと2連勝から一転して2連敗。私はこの時、「キズナは同世代のトップクラスには及ばない」と思いました。
人馬がともに引きだした、お互いの輝き
しかし、このコンビが本物になったのはここから。G3の毎日杯、G2の京都新聞杯と連勝し、もう一度強さを見せ始めたのです。いや、前よりも数段強いキズナがそこにいました。何といっても勝ち方が鮮烈。その鮮烈さを、レース終盤のキズナを見守る自分のリアクションで表現すると、「え、あんな後方から届くの? え、届くの? え? え? うわあ……届いたよ……」という感じ。とにかくファンの予測を覆す能力を見せてきたのです。はるか後方の位置取りから、直線で一気に突き抜ける。デビュー時より一層凄みを増したキズナのレースぶりは、まさしく父ディープインパクト譲り。そして、セオリーに捉われない大胆な戦法を取る武豊騎手の姿は、まさに全盛期のそれでした。
キズナの真骨頂を引き出した武豊騎手と、武豊騎手の輝きを引き出したキズナ。私にはこの人馬がそんな素晴らしいコンビに見えるのです。だからこそ、キズナと武豊騎手がその後の日本ダービーを勝った瞬間に号泣してしまったわけです。天才ジョッキーがスランプを乗り越えダービーを制覇。その時コンビを組んでいた馬の名は「キズナ」。あまりに出来過ぎな話ではありませんか。
名前といい、乗っている騎手といい、とにかく絵に描いたようなスター性を持っているのがキズナ。そのキズナと武豊騎手が、凱旋門賞を勝って日の丸を掲げる瞬間を見たい。もちろんその時は、ティッシュがなくなるほどの大号泣となるでしょう。
オルフェーヴルとキズナ。出来れば両方に凱旋門賞を勝ってほしいのが本音。しかし、そんなうまい話はありません。まして今年は、ヨーロッパのライバルたちも強豪ぞろい。改めて、簡単に勝てるレースではないのです。その中で、何とか2頭が優勝争いに絡んでほしい。願わくは、1着でゴールしてほしい。私たちにできるのは、とにもかくにも2頭を応援することです。
なお、レースの模様は当日23時からフジテレビで生中継の予定。日本馬2頭の走りを見守りましょう。
(リンク)
2013凱旋門賞特設サイト|JRAウェブサイト×レーシングビュアー
オルフェーヴル|競走馬データ‐netkeiba.com
キズナ|競走馬データ‐netkeiba.com