内面の「悟り」へと覚醒させていくジェームス・テイラーの楽曲世界
■アルバム名スウィート・ベイビー・ジェイムス
■アーティスト名
ジェームス・テイラー
■おすすめ理由
ジェームス・テイラーが1970年に発表したセカンド・アルバムで、シングルカットされた「Fire And Rain」は全米3位となりました。
一通りの喜びや悲しみは誰しも味わうものです。
どんな日々も、それがあって然り……。
「スウィート・ベイビー・ジェイムス」というアルバムは、内面の「悟り」へと覚醒させうるほど、深い楽曲世界です。
アコースティック・ギターのアンサンブル、シングルコイル系エレキギターのサウンドはとてもクリア、ダニー・コーチマー、キャロル・キング、ランディ・マイズナーといった西海岸のバック・ミュージシャンによる演奏が、落ち着きと洗練さを保ち、カントリー風な長閑さをも窺えます。
歌唱力という見方をすれば、派手さや卓越さは至って目立たない、大人しく感情をあまり上手く表現できないタイプの人では?と当初は誤解をするほどです。
しかしよくよく聴いてみると、何か訳あり故に「今はこんな面持ちでいるんだよ」と、静かに時を見据える人の風情がありありと浮かんできます。
あえて感情を抑え、実は心の襞へと触れるようなナーバスさを唄に託す術を持つ、それがジェームス・テイラーの才気と言えるでしょう。
ポジティヴさやアグレッシヴさを街宣して回った60年代、世界を一手に受けて、平和の名の下に変革を唱えては求めた60年代、やがてそれらは崩れ去り、疲れ果て、ふて腐れ、多くの若者のポップ・カルチャーは引き際を知りました。
「自分の懐で、痛いところや痒いところ、真実味をもっと唄っていいんだ!」と、経験した多くの挫折を告白していく彼のやり方は、愛と自由と平等を叫んだあの丘の麓で、静かに揺れ始めていました。
やがて訪れた70年代、内省に訴えるシンガー・ソング・ライター達が一斉に出現し始めました。