演奏の中に人生を凝縮した、ブルース・スプリングスティーンの名盤
■アルバム名明日なき暴走
■アーティスト名
ブルース・スプリングスティーン
■おすすめ理由
おそらくそれまでのロックとは、サイケデリックから派生し長尺な即興演奏を主としたジャム系や、南部ブルースに開眼した英国人によるロック、実験性の高いプログレッシヴな音楽を一般に指していたようです。
あるいはトラディショナル・フォークやカントリーの流れを汲んだシンガーソングライターの内省的な詞も交互に存在する時代でした。
しかしポピュラー音楽が次第に多彩になり始めた1975年に、ブルース・スプリングスティーンがリリースしたこのアルバムにより、ロックンロールは新しい未来を見出したと言われました。
まるでボブ・ディランのような詩、フィル・スペクターのような音作り、デュアン・エディのようなギター、ロイ・オービソンのような歌唱、しかし決して出しゃばるようにテクニックを駆使したり、斬新なアプローチや組曲めいた大袈裟な作りも一切なし、只ひたすらリズムをくねらせしたたかにバック演奏に徹する中で、畳み込む様な膨大な歌詞を盛り込んだ唄には、満たされない青春の嘆きや叫び、生活の臭いとそこで生きる人々の生々しさ、逞しさや愛情までも散りばめられた、かつて見た事も聴いた事もないようなものでした。
何の変哲もないロックンロールの演奏の中に人生を凝縮し、私小説やちょっとした映画を観たかのような居心地にしてくれる、ショーマンシップに溢れた内容です。
自身初の全米トップ10入り(ビルボード誌のアルバム・チャートで3位)を果たした名盤として知られています。